
この記事について
この記事は、近年ますます重要性が指摘されている「プロジェクト推進」の技法について解説します。
プロジェクト(未知なる価値を生み出す試みや取り組み)は、とても多様です。「ITプロマネ」的なものを習得すれば、プロジェクト推進力が身につくと思っている方も多いですが、実はそれが誤解です。取り組みの類型別に、どのような技法が適しているのか、そのアプローチの違いについて解説します。
もくじ
1 着目する問題:予定通り進まないプロジェクト。どうやって進めたらいい?
2 プロジェクト状況の8分類
3 8類型別の「勝負どころ」の違い
4 状況とフレームワークを結びつける具体例
着目する問題:
予定通り進まないプロジェクト。どうやって進めたらいい?
「◯◯プロジェクト」と名のつく取り組みが、なかなかどうも、スムーズにいかない、という経験はないでしょうか。
実行する担当者として向き合う悩みの代表例としては、以下のようなものがあります。
「そもそも、目的や目標を、どうやって設定したらいいのか、迷う」
「やりたいことはあるけれど、どうやって実現するのか、情報や手段が乏しい」
「スケジュール通りにならない お金が足りない、人が足りない」
「決めたはずのことが、くつがえる」
「成果物が、思った通りのクオリティに仕上がらない」
「関係者どうしの話し合いが、うまく決着させられない」
あるいは、企業組織におけるビジネス・プロジェクトの責任者や評価者として向き合う悩みの代表例としては、以下のようなものがあるかと思います。
「マイクロマネジメントを避けるため、良かれと思って任せていたら、いつのまにか迷走していた」
「もう少し我慢して、そっと見守っていたが、アクションが停滞し、状況が悪化した」
「こんなの当たり前だろう、と思うことが、メンバーにはなぜか、できない」
「安心して任せられるようになるまで育成するのには、長い時間がかかる」
「PMスキルを客観的に評価することが難しい」
「自分の時間の限界が、事業のボトルネックになってしまう」
そんな悩みを解決するために、なにか方法がないかと探してみると「プロジェクトマネジメント」の言葉に出会います。実際に、その教えのとおりにやってみたことがある、という人も、多くおられることでしょう。
「プロジェクト・マネジメント」の一般的なイメージ
たとえば「プロマネ」という言葉を聞くと、以下の図のようなものを連想する方が多いのではないでしょうか。企画書とタスク表、議事録、この三種の神器を用いて、チームをマネジメントし、タスクを消化していく、というようなイメージです。

たしかに、こうした考え方は、プロジェクト進行の「基本のき」であるといえます。
しかし、実際のところ、こうしたものを勉強し実践しても、根本的な悩みは解決せず、困っている方も多くいらっしゃいます。
それもそのはず。プロジェクトは、実に不定形で、ぐにゃぐにゃとしていて、とらえどころのない活動です。
●どこに目標を置くのか?
●どうやって計画を立てるのか?
●人を巻き込むにはどうする?
●適切な対価や利益とは?
たくさんのありうる可能性から、これぞと思う答えを出さなければならないのが、プロジェクトです。
深く考えずに、とりあえずそれっぽいプロジェクトの計画表を書いてみて、なぞってみた結果、チグハグなことばかり起きて、気づけば迷子になってしまうのも、よくある話です。
企画書・計画書・議事録という三点セットは、プロジェクト運営に必要なフレームワークのごく一部でしかありません。では、その全体像はどれだけあるのかというと、実に多くの領域やフレームワークにまたがります。
参考:プロジェクトフレームワーク図鑑
以下は、実に20年の探求を経てたどり着いた、実務のために整理した「思考の道具」の体系です。本書では14の領域と85のフレームワーク、という形でプロジェクト思考の全体像を表現しました。


ただし、これらの手法を全部覚えないとやれないわけではありません。その場その場で直面する問題に対して必要なフレームワークは、せいぜい3つか4ぐらいのものです。世の中に数多く提唱されているプロジェクト進行方法論は、その取り組みの性格とのマッチングが必要なだけで、全部を覚える必要はないのです。
プロジェクト状況の8分類
このコラムでお伝えしたい、たったひとつのメッセージがこちらです。
本当に物事を前に進めたいなら、その取り組みの「性格」を理解しよう
とにかく悩みを解決してくれる手法を探す、ということではなく、まずは自分が直面している状況から考える。それこそが、あなたにとってふさわしいプロジェクトの進め方を見つける道です。
このコラムで、覚えていただきたい唯一の図は、こちらです。

図の左側に行けば行くほど、その取り組みに関わる関係者が明示的で、いわゆる「甲」と「乙」の間の業務委託契約が発生するようなものになります。右側に行けば行くほど、明示的な契約関係が存在しないなかで、行動変容を訴えたり、問題解決をはかっていく、というものになります。
上下について補足しますと、上側は、受益者の要望や課題が先にあって、プロジェクト活動を通して、それを叶えるものです。下側は、製品や技術、メソッドなどの手段やコンテンツが先にあって、それを受益者に対して提供していく、というものです。
どんなプロジェクトでも、スケジュール管理やタスク管理は、必要です。しかし、そうしたマネジメントスタイルが、あらゆるプロジェクトに、必ず有効なものではありません。
大事なのは、向き合っているプロジェクトの状況に対して、適した情報管理を行うことであり、とりあえず、世間でよく言われるような「なんとなく、プロマネっぽいこと」をすればいい、というわけではないのです。
8類型別の「勝負どころ」の違い
「人間」とひとくちにいっても、色んな性格を持った、多様な人間がいるのと同じで、「プロジェクト」とひとくちにいってもやはり実に様々な性格を持った、多様なプロジェクトが存在します。
では、その取り組みの性格とは、どういうものなのでしょうか。簡単に、表形式で概要をお示します。
| 大分類 | 8類型 | プロジェクト推進者が大事にすべきこと |
|---|---|---|
| 第一類型 委託受託的なもの | ①要望実現 | ●受益者の表層的なリクエストに振り回されない ●最初から思い込みで、実現手段を限定せず、問題や要望を、とにかく深く理解する |
| ②メソッド導入 | ●あらかじめ、必要な資源やプロセス、期間や管理帳票等の計画を詳細に描く ●関係者の責任範囲や業務分掌を明らかにし、スコープが乱れないようにする | |
| 第二類型 製品開発的なもの | ③マーケット・イン | ●いわゆるMBA経営学的な、マーケティング戦略の王道をキチンと立てる ●最上流におけるコンセプト設計を、とことんまでこだわる |
| ④プロダクト・アウト | ●製造側の関係各位がスムーズに連携できるよう「すり合わせ」を大切にする ●ユーザー側の声が適切に製品に反映されるような仕組みやプロセスを導入する | |
| 第三類型 事業開発的なもの | ⑤需要開発 | ●推進者や責任者自身が、受益者の声の、できる限り近くに立つ ●そのうえで、受益者の期待や想像を超える解決策を考え抜く |
| ⑥発明主導 | ●シーズの持つポテンシャルや未来の価値を、当事者自身がとにかく信じる ●特定の市場やターゲットを想定して動きつつも、こだわり過ぎず、試行を増やす | |
| 第四類型 改善変革的なもの | ⑦外圧 | ●外部環境に見たくない要素があったとしても、現実から目を背けず、向き合う ●本当に起きていることの実態を理解するために、現場に飛び込み、一次情報を得る |
| ⑧内発 | ●向き合うべき矛盾に妥協せず、短期的な変化に惑わされない骨太な構想をする ●遠大な計画を見据えつつも、焦らず、伏線を張り巡らせる |
「状況」にあわせて適切なフレームワークを組み合わせると、プロジェクトが前に進む
プロジェクト活動に慣れていない人は、つい、
プロジェクトがうまく進められない
↓
「プロマネ」のやり方を学べばいいらしい
↓
よし、ここはひとつ、スタンダードな教科書を読んでみよう!
と、考えてしまいがちです。
実はそれは、大いなる誤りを含んだ発想です。
「とりあえず、プロマネの勉強をすればよいのだろう」
「とりあえず、プロマネといえば、ITプロマネが王道なのだろう」といった具合に、その取り組みに、本来は合わないはずの手法論を学んでしまい、かえって逆効果になってしまっていることが、とても多いのです。
本当は、以下の順番で、考えてあげなければなりません。
プロジェクトがうまく進められない
↓
このプロジェクトは、そもそもどんな性格を持っている?
↓
性格にあわせた進め方を取り入れよう!
そのプロジェクトの性格を見極めたうえで、そこに適した方法論を応用できれば、鬼に金棒です。
状況とフレームワークを結びつける具体例
代表的なプロジェクト状況で頻出のお悩みと、その解決のためのフレームワークの組み合わせ方をご紹介します。「あっ、これ、自分も悩んでいる・・・!」というものがあれば、ぜひ、解説記事をご覧になってみてください。
全体スケジュールが間延びしがちの案件の全体管理(①要望実現/大規模開発)
専門知識がなくても開発ベンダをうまく巻き込むには(①要望実現/ベンダマネジメント)
「統制と自由度を両立せよ」という無茶振りコンペの対処法(②メソッド導入/コンペ型)
大規模システムのリプレイス案件で、コンペに参加し提案を練っています。テーマとして、本部側の統制と、現場側の自由度を両立せよという方向性が示されており、どうやって実現したものか悩んでいます。
「無理難題」と「譲れない立場」に、どう向き合うか(②メソッド導入/無茶振り系)
生成AI時代、士業の事業構造を描き直す(⑦外圧/ビジネスモデル変革)
課題管理を導入しようとしたら、溶けてしまった(⑧内発/草の根改善)
組織変革プロジェクト、アジャイルで進めていいですか?(⑧内発/組織変革)
ゴール設定が不安なときはどう考える?(全般/そもそも論)
場数を踏んでいないので、想定外の問題が起きたときに、理想と現実の狭間で難しいと感じてしまいます。自身の目指すゴール設定がそもそも正しいのか、ゴールの決めをどこにするのか、その部分がぶれてしまいます。
プロジェクト初心者ゆえの気後れはどうしたらいい?(全般/ビギナー向け)

この記事の著者

プロジェクト進行支援家
後藤洋平
1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。
製造業DX・人材ビジネス・IT開発・新規事業などの経験から、プロジェクト活動における「未知」という難しさを痛感。解決策を模索するなかで、学生時代に学んだ設計学・サービス工学のプロジェクト活動への応用を着想した「プ譜(プロジェクト譜)」は、進行設計を計画書ではなく「譜面」として表現することで、管理に寄りすぎず、柔らかな進め方ができる手法として、静かながらも長年の支持を得ている。
組織マネージャ、ITプロマネ、二児の父という三足のわらじが履ききれなくなって、2019年5月に独立。企業研修や実務支援に取り組むなかで、どの業界、企業、人にも共通する悩みがあると理解し、なにか一助になりたいと思いながらも試行錯誤を続けている。近年はプ譜を用いた壁打ちセッションを試行中。
著書
・予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)
・見通し不安なプロジェクトの切り拓き方(宣伝会議)
・紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本(翔泳社)
・“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで(翔泳社)
・決まるプレゼン・会議の組み立て 意思決定のための「場」の演出論(ビジネス教育出版社)

4年ぶりに、新刊が発売!
著者の後藤がこれまでさまざまな企業のプロジェクト支援や研修の現場で培ってきた経験をもとに、「実際に使えるフレームワーク」を体系的にまとめた一冊です。約20年をかけて壁にぶつかり、悩み、突破してはまたぶつかり、ということをやってきた全ての戦訓と気付きを濃縮還元し、「使えるところだけ」をテキストにしました。

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