「無理難題」と「譲れない立場」に、どう向き合うか

今回のQuestion

Answer

身も蓋もないことを言ってしまいますと、もしあなたがその取り組みに意義やメリットを感じられないのであれば、超短納期・低予算・高品質要求は「断る」のが最善です。立場の違いがどうしても解消しない案件からは「手を引く」以外にありません。

良かれと思って中途半端に引き受け、対応してしまうと、自分も相手も損をするばかりで、誰も幸せになりません。

ただし、「断る」という交渉のカードを切れるのは、多くの会社では経営者や営業の立場であって、特にデリバリー側に立つと、そうはいえないことが少なくありません。ここは現代の企業社会が抱える、本当に難しい問題だと思っていますが、であればこそ、「断れない構造の中で、どう振る舞うか」を考えておく価値があります。

今回は以下の3つのフレームワークを通して、無理難題の正体を名指しするところから、現実的な立ち回りまでの順番でご紹介します。

①利益と立場(契約と交渉)

QCD(進行管理)

③BATNAとZOPA(契約と交渉)

フレームワーク① 利益と立場

要素:利益・立場

質問にある「立場の違い」は、多くの場合、表面化した要求そのものを指しています。「この納期でお願いしたい」という要求も、「それはできません」という拒否も、どちらも「立場」です。その裏には必ず「利益」、つまり本当に守りたいものがあります。

なぜ、短納期? その要望の理由には、上層部への説明期限への焦りがあるのかもしれません。
その焦りを解消するために、短納期で対応する以外のやりかたも、あるかもしれません。

立場同士がぶつかると、違いは解消しにくいまま固定されますが、利益同士は両立できることが少なくありません。「立場の違いが解消しにくい」と感じたときこそ、相手の立場をそのまま受け止めるのではなく、その裏にある利益に目を向けてみる価値があります。

フレームワーク② QCD

要素:品質・費用・納期

「利益」のすり合わせに使えるのが、QCDの考え方です。これを用いると、「無理難題」という漠然とした感覚を、品質・費用・納期という3つの軸に分解することができます。この3つは互いにトレードオフの関係にあり、すべてを同時に最大化することは困難です。つまり「無理難題に見える」のではなく、実際に無理な組み合わせを提示されていることがほとんどです。

どれが優先したくて、なには妥協できるのか。そんな視点で「交渉」というよりも「相談」していくのがお勧めです。

フレームワーク③ BATNAとZOPA

要素:代替案・妥結範囲

どうしても条件がまとまらなければ、「断る」のも一案です。

こちら「断る」
相手「ちょっと待って」

このようなやりとりが起こせたら、それは相手が、自分にとってのBATNA(あなたが降りてしまうこと)を避けたいと感じた瞬間に起きる反応です。

BATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement)とは、合意できなかった場合に自分が取れる最善の代替案のことです。「断る」「手を引く」という選択肢は、まさにこのBATNAにあたります。無理難題には、一旦断るのが好手となることが多いです。なぜなら、ちょっと待ってほしい、と相手が言ってきたときに交渉が始まるからです。

BATNAを持たない交渉は、交渉ではなく要求の丸呑みになります。逆にBATNAさえ手元にあれば、無理な条件を突きつけられても、ZOPA(双方が受け入れ可能な妥結範囲)がどこにあるかを探る余地が生まれます。

まとめ

無理難題や解消しにくい立場の違いは、話し合いの技術だけではほとんど解けません。利益と立場を分け、QCDの視点ですり合わせる。どうしてもまとまらないなら、断る・手を引くという選択肢を見せ、真の妥協ラインを探す。この順番を踏むことで、丸腰で無理を飲み込む事態を減らすことができます。

参考:あなたの悩みの解決法が、必ず見つかる一冊。

 本書は、著者の後藤がこれまでさまざまな企業のプロジェクト支援や研修の現場で培ってきた経験をもとに、「実際に使えるフレームワーク」を体系的にまとめた一冊です。

 東大在学時代の堺屋太一ゼミ「知価社会論」、設計学・サービス工学研究室での学び。新卒就職後の、製造業DXベンチャーでの現場体験、次の会社での新規事業悪戦苦闘。
 さらにはSaaSの会社に転職し、カスタマーサクセスの立ち上げやSIプロジェクト地獄。独立してからの異業種PM支援や人材組織開発、自前のプロダクトアウト七転八倒。そのなかで試行錯誤した、メンタル未病ケアやストレス対策。

 約20年をかけて壁にぶつかり、悩み、突破してはまたぶつかり、ということをやってきた全ての戦訓と気付きを濃縮還元し、「使えるところだけ」をテキストにしました。

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執筆者のご紹介

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家
後藤洋平

1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。
製造業DX・人材ビジネス・IT開発・新規事業などの経験から、プロジェクト活動における「未知」という難しさを痛感。解決策を模索するなかで、学生時代に学んだ設計学・サービス工学のプロジェクト活動への応用を着想した「プ譜(プロジェクト譜)」は、進行設計を計画書ではなく「譜面」として表現することで、管理に寄りすぎず、柔らかな進め方ができる手法として、静かながらも長年の支持を得ている。

組織マネージャ、ITプロマネ、二児の父という三足のわらじが履ききれなくなって、2019年5月に独立。企業研修や実務支援に取り組むなかで、どの業界、企業、人にも共通する悩みがあると理解し、なにか一助になりたいと思いながらも試行錯誤を続けている。近年はプ譜を用いた壁打ちセッションを試行中。

著書

・予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)
・見通し不安なプロジェクトの切り拓き方(宣伝会議)
・紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本(翔泳社)
・“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで(翔泳社)
・決まるプレゼン・会議の組み立て 意思決定のための「場」の演出論(ビジネス教育出版社)

4年ぶりに、新刊が発売!

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