「プロジェクト」と「エントロピー」に関連する用語を全部集めてみる

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このコラムのテーマと中身

「負のエントロピー」

物理学者であるエルヴィン・シュレーディンガーは、『生命とは何か』(1944年)にて生命は「負のエントロピー」を食べて生きていると指摘した。その含意をざっくりと表現すると、以下の通りとなる。

動物は、植物を食べることでエネルギーを獲得し、カロリーを燃やして運動するというイメージがある。
それもそれで誤りではないが、そのようなエネルギー系の過程にともなって、エントロピー系(情報処理)過程が働いている。

生命・気象・文明もまたすべて、「エントロピーを外に捨てながら、内部に秩序を維持する」プロセスである。地球をマクロに眺めても同じである。

太陽からエネルギーを受け取り、そのエネルギーで運動しているわけではない。人類を含む地球は、太陽から受け取ったエネルギーをほぼ同じ量だけ、放出している。若干残存しているがゆえに、寒冷化から免れている。

太陽から受け取る宇宙へ放出する
エネルギー約1単位約1単位(ほぼ同じ)
光子の数少ない(高エネルギー光子)多い(低エネルギー赤外線光子)
エントロピー低い高い

始まりは、太陽で起きている核融合

太陽は重力により水素核を集め、核融合反応を起こしており、これが「低いエントロピー」を発生させている。

※補足※
νe(ニュートリノ)とは:物質と相互作用しない
→ 太陽からまっすぐ届く( 情報を運ぶが仕事をしない)

γ(ガンマ線)とは:物質と強く相互作用する
→ 太陽内部で何度も吸収・再放射( エネルギーを運び仕事をする)

太陽は重力エネルギーを使って、「バラバラな水素」という高エントロピー状態を「少数の高エネルギー光子」という低エントロピー状態に変換する装置とも見なせる。

※太陽そのものも、よりエントロピーの低い原始太陽系星雲から生まれた
※エントロピーの増大を妨げる要因もまた、宇宙のいたるところにある
※宇宙の歴史全体が、エントロピー増大の跳躍と遅滞で構成されており、その進行は一様ではない

では、地球はどうやって宇宙へ熱とエントロピーを放出しているのか

黒体放射によって放出している。

物体は温度を持つだけで電磁波を放射する。そのスペクトル分布はプランクの式で記述される。

外界に対して境界を持つ物体は、構成分子の振動の総量として温度を有する。
温度を有する物体が、電磁場と熱平衡状態にあるときに起きている状態のことを、黒体放射という。

太陽表面から出る光は約5800Kの黒体放射となっている。
地球表面は約288Kの黒体放射。
人間は約310Kに応じた黒体放射を行っており、その大部分は目に見えない赤外線として放出されている。

温度Tの黒体放射が持つエントロピー密度

寄り道① 地球から宇宙への熱放出の効率は大気組成が影響する

光子が分子に吸収されるには条件があり、光子のエネルギーが、分子のエネルギー準位の差にぴったり一致しないと吸収されない。

赤外線光子を吸収 → 分子が振動励起状態へ
 → 別の分子と衝突→熱として周囲に分散
   または自発放射/誘導放射(光子を再放射)

方向がランダムなので、一部は地表に戻り、一部は宇宙へ抜ける。
これが温室効果の実体。

気体働き
CO₂、H₂O、CH₄赤外線を吸収・再放射(温室効果)
O₂、N₂赤外線をほぼ素通りさせる

約8〜13マイクロメートルの領域は温室効果ガスの吸収が少なく、地表の熱が直接宇宙へ抜ける。これを大気の窓と呼ぶ。
砂漠が夜間に急激に冷えるのは、水蒸気が少なくこの窓が大きく開いているため。逆に湿度の高い熱帯では窓が狭く、夜間も温度が保たれる。

地球の赤外放射スペクトルは、288Kの黒体放射を包絡線として、大気分子が特定波長を吸収した穴だらけの構造を持つ。この「穴の形」がまさに大気組成の指紋であり、宇宙から地球を観測すると大気の成分が読み取れる。系外惑星の大気分析も同じ原理を使われている。

寄り道② 地球の周期的な気候変動について

炭素固定の観点からみた地球の気候変動史

出来事炭素の動き気候への影響
光合成の誕生大気→生物圏CO₂低下・寒冷化
石炭紀の森林大気→地中CO₂急低下
白亜紀の火山活動地中→大気CO₂上昇・温暖化
現代の化石燃料燃焼地中→大気CO₂上昇・温暖化

数万年スケール:ミランコビッチサイクル

サイクル周期内容
離心率約10万年地球の公転軌道の楕円度の変化
地軸の傾き約4.1万年23.5°±1°程度で変動
歳差運動約2.6万年地軸の首振り運動

数百万〜数千万年スケール

火山活動 → CO₂放出 → 温暖化

風化作用 → CO₂吸収 → 寒冷化

大陸配置の変化
・海流のパターンが変わる
・南極大陸が孤立→南極環流→氷床形成
・パナマ地峡の閉鎖→メキシコ湾流強化→北半球氷床へ

生物の「低いエントロピー」の利用過程について

全体像

光合成の反応式

物質・エネルギー系として見たときに光合成がやっていること

情報系として見たときに光合成がやっていること

植物は、光合成を通じて太陽からのエントロピーが低い光子を溜め込む。動物は、捕食によって低いエントロピーを得る(エネルギーが手に入りさえすればよいのなら、餌をとる代わりに灼熱のサハラに向かうだろう)。
生体の各細胞にはうf苦雑な化学反応網があり、そのなかのいくつもの扉が閉じたり開いたりすることによって、低いエントロピー資源の増大が可能になる。分子は、触媒となって過程を推進したり、制動をかけたりする。そして各過程でエントロピーが増大することで、全体が機能する。生命は、エントロピーを増大させるためのさまざまな過程のネットワークなのだ。
「時間は存在しない」カルロ・ロヴェッリより

人間の認知システムとエントロピー

同じBPMでも、機械音なのか犬の散歩の足音なのかで、人間が受け取る印象はまったく変わる。
同じ電子的映像でも、ホワイトノイズより木漏れ日のほうが癒される。
なんらかのパターンを受け取り、人間の認知システムにおけるエントロピー収支が改善されている、というふうに思われる。

神経科学者カール・フリストンの自由エネルギー原理もまたエントロピーと深く関係している。

この予測誤差が、情報理論的なエントロピーと対応している。

木漏れ日、波の音、心拍、歩行リズム、バッハの音楽…これらはすべて1/fゆらぎを持っている。人間の認知系がこの構造に共鳴するように進化してきた可能性は十分に考えられ、またそれは美的感覚や安らぎ、といった肯定的感性と深く関連しているのも間違いないように思われる。

低すぎるエントロピーも、高すぎるエントロピーも、意識活動には無意味である。

芸術・音楽・自然の美は、規則性(低エントロピー)と意外性(高エントロピー)のバランスによって成立しているとも考えられる。

生命活動には、生命活動に特有の何かしらのパターンを有している。それはとんでもなく高次元のパターンゆえに、物理的に定式化することは永遠に不可能かもしれない。一方で、生きているものには当然のようにそれが内蔵されていて、それに従って生き物は生きている。
そのことは、私たちが重力方程式を解けなくても、重力場に対応し運動していることと似ている。

しかしここで、改めて深く深く面白いのは、エントロピーが高すぎる状態は「予測する意味がない」という意味において予測が容易であり、ときとして我々はこれを「低エントロピー状態」だと認識しがちである。

数学の無限論の世界に、文字列を無限につらねていけば、そのなかにシェイクスピアの作品が含まれるという命題がある。言い換えれば、ホワイトノイズを無限に垂れ流せば、バラエティ番組が映る、ということになる。それはおそらく嘘である。というよりも、無限に連ねた文字列という概念自体が、言語システムが引き起こすバグのようなもので、存在しないものを想定している。ゆえに、私たちはテレビのホワイトノイズをえんえんと観察しつづけ、この命題を検証しなくてもよい。

人間が、あるいは生き物が、意味のある情報と出会い、存在同士が相互作用をし、互いが互いを変容させ、新たななにかを生む。これを価値と呼ぶのではないか。そして仏教哲学がそれをこそ、縁と呼んだはずである。

生物進化とエントロピー

生き物は、エネルギーとエントロピーを取り込み、消化し、利用し、放出するシステムである。
その効率を高める契機として、進化というプロセスがあった。
それは常に情報系のマイナーチェンジという形でなされてきた。

人間の食事とエントロピー

魯山人が、新鮮なものを食べよ、美しい器に盛りなさい、まずいものはどうしたってうまくならない、といったのは、まさしくエントロピーを下げることを言っていたのではないか。

土井善晴が、買ってきたものでも、少しでも手をかければ食事になると言っていた。これもまた、エントロピーを下げる過程のことを言っていたのではないか。

人間が生きるためには、負のエントロピーが必要である。物質を摂取消化する過程においても、情報を摂取消化する過程においても。

芸術とエントロピー

岡本太郎が「太陽の無償性」をいったのも、その本質はむしろ、エントロピーを補助線に理解すべきではないか。

最先端の心理学によると、トラウマが、人間の認知機能を低下させるという。脳神経が処理しきれない量のエントロピーを受けとると、思考や感情が停止し、緩やかに死に向かう。

古来より、人間の暴力が、敵を辱めることと表裏一体であったこと、そして芸術があくまでも戦争の対極に位置すること、太郎の芸術が常に誇り高いことを大事にするのは、無縁ではないと考えられる。

人間が芸術・宗教・物語を求めるのは、情報処理効率の改善に、それが必要だからではないか。

プロジェクトマネジメントとエントロピー

プロジェクトマネジメントは、エントロピーを下げる行為である。

人も法人も、利得を最大化し、危険を避け、コストを下げるために、常に情報処理を行っている。
情報処理にもまた、エネルギーを消費する。

プロジェクトとエントロピー

人間が排出したエントロピーは、いつかどこかで赤外線になる。それが地球を温める。
温まりすぎると人間はおそらく困る。(すくなくとも、現在の生活インフラでは対応が極めて困難になる)

プロジェクトは、エントロピーが閉じこめられていた状態から、解放されるプロセス(解放)そのもののこと、なのかもしれない。
あるいは、無駄な排熱という悪縁を断ち切り、あるべき場所に収めるプロセス(封印)なのかもしれない。

おそらく、生産性の高い、本当にやる意義のあるプロジェクトを立ち上げ、動かしていくなかで、おそらくその当事者の「脳内エントロピー」が下がることこそが、重要なのではないか。それこそ太陽のように、十分に低いエントロピーを周囲に対して贈与することができれば、まわりのヒト・モノ・カネは、より生き生きと、生きられるのではないか。


この記事の著者

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。

世の中のプロジェクトがもっと幸せなものであるようにと思って、日々、プロジェクト立て直しや育成プロセス改善など、試行錯誤しながら、活動しています。

著書

・予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)
・紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本(翔泳社)
・“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで(翔泳社) 等

プロジェクト時代の、メンタル未病ケア

プロジェクトがしっくりいかない、なんだか最近モヤモヤする・・・
という方向けの、純粋壁打ちという取り組みを始めました。

どんなセッションなのかは、以下の画像をクリックするとご覧いただけます。

参考コラム

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