プロジェクトとはなにか、そしてプロジェクトマネジメントとはなにか

この記事について

そもそも、プロジェクトとはなにか?

 「プロジェクトマネジメント」とはなにかを理解するためには、まずは、「プロジェクト」とは何かを正しく定義する必要があります。

 プロジェクトの言葉は以下の形で定義されます。

 プロジェクトを一言でいうと、それは「未知への挑戦」です。

 プロジェクトの基本三要素を分解すると「資源」「制約条件」「目標」となります。これらの3つの要素は、時々刻々と変化します。

 ゆえに、プロジェクトとは、そもそも思い通りにならないという性質を持ちます。それをあらかじめ思ったとおりに成功させることは、この世の誰にも約束できません。

では、プロジェクトマネジメントとは?

 未知への挑戦の結果を、思い通りにコントロールできる人はいません。では、プロジェクトマネジメントとはなんなのか?
 プロジェクトマネジメントを、プロジェクトの結果そのものをマネジメントする手段と理解すると、不可能なことをあたかもできるというような、矛盾した話となります。

 プロジェクトマネジメントは、プロジェクトに関わる人間同士の納得を目指すための管理行動である、と理解すれば、この矛盾を克服することができます。

 つまり、端的に対比すると、以下のとおりとなります。

 プロジェクトは「未知への挑戦」
 プロジェクトマネジメントは「プロフェッショナルの約束」

 プロジェクトは「気がつけばそこにあるもの」
 プロジェクトマネジメントは「当事者同士の明示的な意図のもとで発生するもの」

例えば、晩ごはん作りもプロジェクトである

 プロジェクトは、極めて多くの変数を操作する行為です。ある晩の夕食を作るのも、プロジェクトです。

・献立はなにがいいだろうか。
・ボリュームはどうしようか、食べる人間の腹具合はどうか。
・明日の朝にも残しておこうか。日持ちは?タッパーはあまっていたっけ。

・味覚的な好みと栄養のバランス。
・調理の段取りはどうするか、鍋とコンロはあいているか。
・材料はあるのか、それとも買い足すか。

・買い物に出るなら、ついでにあれもやろうか、これもやろうか。
・食後にはあれもやりたい、これもやりたい。
・明日の予定を考えると、いついつまでには風呂に入りたい。

 こうしたさまざまのことを、まとめて全部考え合わせて、よしこれを作ろうと決めて作るのが、食事です。

 その日の夕食が幸福なものとして終えられるかどうかは、この超多変数関数が要領よく解けるかにかかっています。

 割り切って簡単に済ませるのが正解かもしれないし、徹底的に考え工夫すべきかもしれない。買ってきたものや外食で済ませてもいいし、もしかしたら「食べない」という選択肢すらあるかもしれない。

 「ありうる状態が多い」ということを物理学用語では「エントロピーが高い」といいます。作るメニューの候補が多い状態も、食事の内容によって、その場の雰囲気がどうなるか読みづらいことも、同じく「エントロピーが高い」といえます。

 冷蔵庫の材料の種類が多いことも「エントロピーが高い」といえますし、そうしたあれこれを考えて頭の中がこんがらがった状態もまた「エントロピーが高い」ということになります。二人のパートナーシップが維持されるかどうかわからない、予断を許さない、というのも、「エントロピーが高い」ということになります。

 考えうるあらゆる選択肢には、それを選んだ先に起きうるシナリオの可能性があります。人は、夕食という一大事業を営むにあたって、無意識に膨大な計算を行っています。

味気ない食卓はどこから始まるのか

「今日のご飯、なにが食べたい?」
「なんでもいいよ、簡単なもので」

 この会話のうらはらには、ときに、のっぴきならない緊張感が走ります。そのうらに、「その夜の晩ごはんプロジェクト」という、大いに脳的エネルギーを要する情報処理活動を、どちらが担うのかという交渉を、暗黙のうちに、はらんでいるからです。

 つまり、この会話を意訳すると

「なんかいい感じの提案ない?」
「そっちこそなんか、ぱぱっといい感じにお願いよ」

ということだったりします。もし万が一これが

「いつもいつも丸投げしてさ、たまにはちょっとは家事に協力してよね」
「贅沢言わずに出されたものをいただく自分は、いいパートナーだなぁ」

だったりしたら、それが積み重なっていくうちに、二人の間には溝が広がっていきます。

幸福な食卓はどこから始まるのか

 ちょっとしたきっかけで、スルスルっとメニューが決まり、テキパキと調理が進み、美味しく食べられるときもあります。

「ガッツリしたものがいいな」
「冷蔵庫に合挽き肉とプチトマトがあるね」
「じゃあ、ひさしぶりに、簡単ハンバーグだ」
「ワインもつけちゃおうか」

 ふとしたインスピレーションが、その場に投げ出されているつながり合いのなかったものたちに、関係性を与えるということがあります。その変数さえ最初に決まってしまえば、その後のことは、なにか難しい計算をしなくても、パタパタと決まっていく。結果が結果を呼び、アイデアがアイデアを誘い、その場にある作業が、面倒なタスクでなく、面白い遊びに変容していく。

 プロジェクトが、幸せな形で結縁成就するとは、そういうことです。

ふたつの食卓の違いはどこにあるのか

 ここで、補助線としたい言葉があります。フリストンの「自由エネルギー原理」です。これは、「人間の脳は”驚き”を最小化するようにできている」とする考え方です。
 脳のなかには「世界はこうである」というふうに考えるモデルがあります。それと実際の世界から受け取る近くや情報が異なると、人間はびっくりします。そのびっくりがチャンスを意味することもあれば、脅威やリスクを意味することがあります。
 生き物には、エネルギーの獲得・活用・代謝の効率を高めたいという基本的な欲求があります。できるだけ損害やリスク、コストを少なくして、できるだけ利得を多くしたい。そのために、内的な世界モデルを環境と一致させようとします。そのために、自分の認識を更新したり、外の環境に働きかけてそれを改変しようとしたります。

 食事を始めるまえのモヤモヤとした状態は、当事者の内的世界モデルと置かれた環境のあいだに同期が取れていない、シンクロしていない状態です。つまり、主体者の内部モデルと環境の一致度が低く、行為と結果のエントロピーが高い状態です。
 味気ない食事は、当事者間の内部モデルの同調にも、当事者たちと環境の間の同調にも失敗しています。ゆえに、身体が求める食事にならず、栄養変換効率が低い状態を招いています。

 そもそも、調理や食事をする過程は、まさに「エントロピーを下げる行為」であるといえます。

 工業的に作られた食べ物は、寸法や形、栄養素などの物理条件としては整えられていて、その面でのエントロピーは下げられていますが、人間の消化吸収のために必要な分子構造はむしろ破壊され、エントロピーが高まっています。
 新鮮な食べ物が美味しく感じられるのは、人間の消化吸収にとって必要な分子構造・情報構造が維持されているからです。

 メンタル不全をあらわす言葉に「適応障害」と名付けられたものがありますが、まさにこれは言いえて妙です。脳が環境に対して適応・同期に失敗している―――それは、脳内で処理できる情報量が許容値を超えている、エントロピーが過剰に高まりすぎているということを暗示する言葉です。

まとめ:プロジェクト活動における生産性の正体

 プロジェクトにとって唯一絶対に必要なのが、同期を取るための最初のきっかけ、インスピレーションを招く言葉です。よいインスピレーションを得るためには、その前提として、環境に対して十分な情報を取得しておくことが必要です。十分な情報に「タイミング」「組み合わせ」「思い切り」の働きが加わると、状況はとたんに生き生きとし始めます。

 タイミング、組み合わせ、思い切り。たしかにそうかもしれないが、なんと、あいまいな、あやふやな・・・再現性ゼロじゃないかと、思われるかもしれません。しかしそれは、ルール主義の社会で生きているから、そう見えるだけなのかもしれません。
 生産性の高いプロジェクトとは、するっと無駄なく、エネルギーが最大効率で流れ、その結果として、いいものが最小のコストでできる、ということです。しかし実際の業務現場では、良かれと思ってするプロジェクトマネジメントが、かえって動きを阻害してしまうことも多い。

 事業活動を行うための枠組みとして企業組織があり、それは常にプロジェクトを扱っています。企業や事業を作ることそのものも、プロジェクトとして存在します。経済や社会は規範を必要とし、規範を規範たらしめるために、マネジメントというものが存在します。

 プロジェクトはよく上流、中流、下流と川にたとえられますが、このマネジメントという行いが、どうもこう、コンクリートでガチガチに固めた護岸工事であることが多いように見受けられます。ロジックと標準で固めれば、最大効率が実現すると、多くの投資家や経営者やコンサルタントは考えます。しかしそれは、本当にそうでしょうか?

 プロジェクトは、ときに恐ろしく獰猛な、じゃじゃ馬のような暴れ川となります。
 そんな暴れ川は、いくら堤防をコンクリートで固めても、鎮まりません。

 安全安心安定な水路を目指して、コンクリートと固めよう固めようとしとすると、往々にしてその結果として、ますます水が溢れます。そんなプロジェクトでは、必ずその中流域、下流域で、人間を消耗させる人海戦術が採用されます。
 経済はむしろ川の氾濫を求めている、ともいえます。そのほうが、わかりやすく仕事が生じるからで、またそこで生じる仕事そのものも、とてもわかりやすいものになるからです。人間は、仕事を失うことを本能的に恐れる生き物でもあります。

 しかし、状況の不確実性、情報や利害の複雑性は、かならず人間の脳をすり減らします。
 すり減った脳は、思考停止を求めます。
 思考疲労の果てに、感情の停止と肉体の酷使が起きます。

 世の中にはそんなプロジェクトがいくらでも溢れていて、冷静に見渡すと「自分たちは、なぜ、なんのためにこんなことをやっているのか」と、茫然とします。

同期を取る、という唯一にして最大のヒント

 プロジェクトマネジメントをいくら頑張っても、プロジェクトは、幸せになれるとは限りません。むしろ、阻害してしまうことすらあります。 効率や利益のためにプロジェクトマネジメントをする、という問いの立て方には、致命的な誤りがあるのではないか。プロジェクトとは、私たちがみんなで幸せになるためにあるはずで、それをあつかうプロジェクトマネジメントの手際に誤りがあると、かえって不幸を呼び込んでしまう。

 1960年代頃から整理されたウォーターフォール型プロジェクトマネジメントは、予測駆動の計画管理とも呼ばれます。工業社会では、これなしで大規模プロジェクトを動かすことはできませんが、多くの疲弊の原因となってきたことも事実です。

 そもそもプロジェクトとは、リスクを取ることそのものなのです。いたずらリスクを下げようとしたり、やみくもに教科書通りにしようとしてしまうと、ウォーターフォール型プロジェクトマネジメントは、むしろその機能を発揮しません。リスクをやたらめったら恐れるのではなく、瞬間瞬間で、むしろ適切にリスクを取ること。それにより関係者が外部環境をシンクロさせること、それがプロジェクトマネジメントの、究極の本質です。
 アジャイルは適応型マネジメントと呼ばれ、そのニュアンスにとても近い方法論となっていますが、しかしアジャイルもまた、「絶対に成功できる銀の弾丸」と思ってしまうと、ウォーターフォールの失敗を繰り返します。

 冒頭で、プロジェクトマネジメントは、約束であると書きました。それは、机上の空論で計画を立て、できない約束をすることではありません。ましてや、してしまった誤った約束を守るために、関係のない人間や環境に余計な負担をかけるのでもありません。
 瞬間瞬間の文脈を見定め、リスク・コスト・利得のバランスを最適化するのが、本来の意味におけるプロジェクトマネジメントなのです。

 インターネットがうまれ、Web2.0、モバイルの普及、SaaS・クラウド、そしてビッグデータ・生成AIと、技術の進展とともに、社会の情報エントロピーは加速度的に上昇しています。
 バラバラになった要素同士が、ある言葉をきっかけに、つながりあい、流れ出す。流れと流れがであい、交わり、幸せにエネルギーが循環していく。そんなプロジェクトが世の中にもっと増えていくことを願い、ゴトーラボは、探求と実践を続けています。


この記事の著者

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。

世の中のプロジェクトがもっと幸せなものであるようにと思って、日々、プロジェクト立て直しや育成プロセス改善など、試行錯誤しながら、活動しています。

著書

・予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)
・紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本(翔泳社)
・“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで(翔泳社) 等

プロジェクト時代の、メンタル未病ケア

プロジェクトがしっくりいかない、なんだか最近モヤモヤする・・・
という方向けの、純粋壁打ちという取り組みを始めました。

どんなセッションなのかは、以下の画像をクリックするとご覧いただけます。

参考コラム

連絡先

mail: info@gotolab.co.jp
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youtube再開しました!

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