組織変革プロジェクト、アジャイルで進めていいですか?

今回のQuestion

Answer

事業部が異なるマーケ・IS・FS連携のお取り組みをなさっているのですね。

そうですね、基本的に、おなじ組織内の複数機能の連携ということでしたら、ビジネスロジックやシステムロジックを論理的に分析しやすいため、むしろインクリメンタル型で進めるのが常道かなと思います。

今回は、事業部が異なる、ということがポイントになりそうな気がしております。

場合によって、明らかにこのシステムやツールを入れたらうまくいく、ということが明確な場合は、むしろウォーターフォール型でもよいかもしれません。そもそもなにが課題なのかが明確でない、現場側には連携することの実務的なメリットや需要が感じられていない、ということでしたら、仰るとおり、色んなことを試しては反応を確かめる、反復的なアジャイル型での進行も、選択肢として入るかと存じます。

どの開発スタイルを採用するかを判断するために、開発スタイルの選定よりも前段階でお勧めしたい、ふたつのフレームワークがありますので、あわせて解説します。

①利害関係マップ(構想)

②プ譜(戦略)

③インクリメンタル(開発スタイル)

フレームワーク① 利害関係マップ

要素:出資者・情報媒介者・受益者・協働実行者・諸侯

型を選ぶ前に、まず描くべきは利害関係の全体像です。マーケ・IS・FSという異なる事業部は、それぞれが独立した意思決定権を持つ諸侯にあたります。統括直轄のマーケ企画Gは、彼らを直接指揮できる立場になく、動いてもらうよう働きかける情報媒介者の役割です。

この構造を最初に可視化しないまま「型」を選んでも、それで進めようとした瞬間に「ちょっと待て、そもそも誰が何を動かしていいんだっけ?」で、止まります。開発スタイルの選定は、この「後」に来る話なのです。

フレームワーク② プ譜

要素:獲得目標・勝利条件・中間目的・施策・廟算八要素

組織変革のように、成果物の輪郭がはっきりしないプロジェクトは、実は開発スタイル(ウォーターフォール/アジャイル等)の対象にあまり馴染みません。開発スタイルは「作るものが決まっている前提で、どう作るか」を扱う型だからです。

一方プ譜は、獲得目標(連携が強化された状態とは具体的に何か)と勝利条件(どうなれば成功と言えるか)を先に言語化し、廟算八要素で各事業部の温度感やリソースといった手持ちの条件を棚卸しする型で、「何を目指すか自体が曖昧なプロジェクト」に向いています。組織変革の実務は、プ譜で設計する方が筋が良いことが多いです。

自分が書いて周囲の関係者に周知するだけでなく、関係者にも書いてもらって、互いに考えを言語化、可視化しながらすり合わせるのもオススメです。

フレームワーク③ インクリメンタル

要素:インクリメント・リスク評価・早期検証

そのうえで、質問にある「アジャイルで進めたい」という感覚に、いちばん近い開発スタイルはこれだと思います。アジャイルは本来、単一のチームが一つの製品を、方向転換(ピボット)も辞さずに作り込んでいく型です。しかし今回のように、複数の事業部を巻き込みながら、小さく始めて検証し、リスクを見ながら範囲を広げていくという進め方は、インクリメンタルの型の方が実態に合っています。

変革改善系のプロジェクトは、組織の状態の変化を目指すものであり、なにか具体的な成果物そのものを作るのが目的とはなりませんが、それでもなにかしらのモノが介在します。(業務用のツールやマニュアルの導入など)

インクリメンタル型のスタイルは、それらのモノを、最初から全部作り込んで導入するのではなく、最もハイリスク・ハイリターンなものから素早く導入し、うまくいけば次、また次、と、躍動的に進めていく方法です。

まとめ

「なんとなくアジャイル」と思って、ふわっと始めるのが、変革プロジェクトの失敗の典型例です。それとは似て非なる「インクリメンタル」の考え方を、ぜひ、この機会に理解ください。
ただそれもあくまで理論、理想論です。地に足のついた利害関係分析、そして取り組みにおける抽象度の高い次元での戦略検討。こうしたものもあわせて目配り、気配りすることで、変革プロジェクトは動かしやすくなります。

参考:あなたの悩みの解決法が、必ず見つかる一冊。

 本書は、著者の後藤がこれまでさまざまな企業のプロジェクト支援や研修の現場で培ってきた経験をもとに、「実際に使えるフレームワーク」を体系的にまとめた一冊です。

 東大在学時代の堺屋太一ゼミ「知価社会論」、設計学・サービス工学研究室での学び。新卒就職後の、製造業DXベンチャーでの現場体験、次の会社での新規事業悪戦苦闘。
 さらにはSaaSの会社に転職し、カスタマーサクセスの立ち上げやSIプロジェクト地獄。独立してからの異業種PM支援や人材組織開発、自前のプロダクトアウト七転八倒。そのなかで試行錯誤した、メンタル未病ケアやストレス対策。

 約20年をかけて壁にぶつかり、悩み、突破してはまたぶつかり、ということをやってきた全ての戦訓と気付きを濃縮還元し、「使えるところだけ」をテキストにしました。

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執筆者のご紹介

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家
後藤洋平

1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。
製造業DX・人材ビジネス・IT開発・新規事業などの経験から、プロジェクト活動における「未知」という難しさを痛感。解決策を模索するなかで、学生時代に学んだ設計学・サービス工学のプロジェクト活動への応用を着想した「プ譜(プロジェクト譜)」は、進行設計を計画書ではなく「譜面」として表現することで、管理に寄りすぎず、柔らかな進め方ができる手法として、静かながらも長年の支持を得ている。

組織マネージャ、ITプロマネ、二児の父という三足のわらじが履ききれなくなって、2019年5月に独立。企業研修や実務支援に取り組むなかで、どの業界、企業、人にも共通する悩みがあると理解し、なにか一助になりたいと思いながらも試行錯誤を続けている。近年はプ譜を用いた壁打ちセッションを試行中。

著書

・予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)
・見通し不安なプロジェクトの切り拓き方(宣伝会議)
・紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本(翔泳社)
・“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで(翔泳社)
・決まるプレゼン・会議の組み立て 意思決定のための「場」の演出論(ビジネス教育出版社)

4年ぶりに、新刊が発売!

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