「統制と自由度を両立せよ」という無茶振りコンペへの対処法

今回のQuestion

Answer

「要求」「要件」の定義がずれるの回も思い出す状況ですね。発注側が示している「統制と自由度を両立せよ」は、要件ではなく、まだまだスローガンに近い、生煮えな要求の段階です。実現方法に翻訳されていないから、悩むのは当然ですね。RFPや仕様書の名のもとに、こうした煮詰まり具合のリクエストがポンポンと出されてしまうのは、まさに現代プロジェクトの悩みの典型だともいえます。

しかもコンペです。他社も「柔軟性とガバナンスを両立します」と書いてくるので、勝負は両立すると言うことではなく、どんな構造で両立させるのかを見せられるかになります。

着眼すべきは、「統制と自由度が対立して見えるのは、同じ場所で綱引きしているからだ」という点です。統制したいものと自由にしたいものが別々の層にあると見せられれば、二律背反は「どちらを取るか」ではなく「どこに置くか」の問題に変わります。

①MVC(情報システム・ソフトウェア)

②アブダクション(アイデア発想)

③テーマとコンセプト(構想)

フレームワーク① MVC

要素:Model・View・Control

情報システムの最も基本的なものに立ち返ります。今回のお題を考えるためのフレームワークとして、「MVC」こそが、診断と設計を兼ねたいちばんの本命です。

●Modelはデータと業務ルール
●Viewは見せ方と入力の仕方
●Controlは両者をつなぐ仕組み

これを統制と自由度に当てはめると、

本部が統制したいもの:数字の定義、マスタ、権限、監査ログなど → Model
現場が自由にしたいもの:画面の並び、入力の手順、帳票、現場ごとの項目追加など → View
両者の接点:現場の変更が本部の定義を壊さないための承認や変更管理 → Control

という配置ができます。

本部の言う統制も現場の言う自由度も、たいていは別の層の話をしていることが分かります。
この対立構造において「本部の言い分と現場の言い分、どちらを取るか」と読み解いて落としどころを探ると、どちらも得せず、納得しない中途半端なものになります。

「どの層をどちらが持つか」という問いに置き換えるのが、最初の第一歩となります。

フレームワーク② アブダクション

要素:構造・組み合わせ・転写

①で層に分けるだけで、多くの矛盾がクリアできる可能性がありますが、実際に各論詰める中で「現場固有の項目をModelに足したい」といった、層をまたぐ場面が残ることもあります。

ここで、別の分野で同じ構造を解いている仕組みを探し、借りてくる(転写する)のがアブダクションです。まず「中央が決める最低限」と「現場が決める中身」という構造を取り出し、似た構造を持つものを探します。たとえば、以下が一例です。

●国が最低基準を定め、地方が上乗せや横出しをする(法律と条例)
●ブランドの基準は本部が持ち、店舗の運営裁量は現場にある(フランチャイズ)
●ブロックの接続部だけ規格を統一し、組み方は自由にする(レゴ)

これらから、「統制は接続点に置く」「本部は最低基準(ガードレール)だけ握り、内側は自由にする」といった、情報システムにも転写できる型が見つかります。他社が機能一覧で勝負してくるなかで、両立のさせ方に説得力のある由来があることは、提案の差になります。

このあたりは、生成AIの力を借りると威力を発揮しやすいところです。
「ガバナンスと自由度のトレードオフを解決した事例を、飲食業界で教えてほしい」
「旅行・ホテルや宿泊施設で」「建設業で」
など、まったく異なる業界や文脈での事例情報を集め、参考にすることで、魅力的なアイデアが生まれることがあります。

フレームワーク③ テーマとコンセプト

要素:動機・世界観・アプローチ

最後に、①②で見えた設計を、提案書の軸になる一言に束ねます。

●動機:本部がなぜ統制を求め(説明責任、リスク低減、経営の見える化)、現場がなぜ自由度を求めるのか(顧客対応の速さ、業務の実態への適合)。両方の背景を押さえるのがポイント。
●世界観:導入後の姿、ありたい姿、ビジョンを言葉であらわす。たとえば「本部は◯◯から◯◯へ。現場は◯◯から◯◯へ」など。
●アプローチ:どう実現するかを説得する。ここに①の層分けと②で見つけた創造的な発想を入れる。

コンペでは、短い言葉で言い切ることが、思った以上に重要です。効果的な「短く言い切る言葉」は、相手の印象に残るだけでなく、提案書全体の芯になります。

魅力的な構想、新鮮なコンセプトが短くてわかりやすいフレーズになると、それが良い意味でひとり歩きしてくれて、企画推進を後押ししてくれます。

まとめ

統制と自由度の両立、といった矛盾したオーダーは、矛盾に妥協し、問題や論点を薄めて折り合いをつけるのでは、魅力的な提案にはなりません。「なるほど、その手があったか!」という嬉しいサプライズを提供できて、そこで初めて競合と差がつきます。

しかも、キャッチフレーズのレベルでそれを主張するのではなく、あくまで業務論、情報システム論として地に足のついた内容にする。それが最大のポイントです。そのための「問題を分ける技法」としてのMVC。さらに「事例や知識を組み合わせ、新価値を呼び込む技法」としてのアブダクション。ぜひ、ご活用ください。

参考:あなたの悩みの解決法が、必ず見つかる一冊。

 本書は、著者の後藤がこれまでさまざまな企業のプロジェクト支援や研修の現場で培ってきた経験をもとに、「実際に使えるフレームワーク」を体系的にまとめた一冊です。

 東大在学時代の堺屋太一ゼミ「知価社会論」、設計学・サービス工学研究室での学び。新卒就職後の、製造業DXベンチャーでの現場体験、次の会社での新規事業悪戦苦闘。
 さらにはSaaSの会社に転職し、カスタマーサクセスの立ち上げやSIプロジェクト地獄。独立してからの異業種PM支援や人材組織開発、自前のプロダクトアウト七転八倒。そのなかで試行錯誤した、メンタル未病ケアやストレス対策。

 約20年をかけて壁にぶつかり、悩み、突破してはまたぶつかり、ということをやってきた全ての戦訓と気付きを濃縮還元し、「使えるところだけ」をテキストにしました。

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執筆者のご紹介

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家
後藤洋平

1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。
製造業DX・人材ビジネス・IT開発・新規事業などの経験から、プロジェクト活動における「未知」という難しさを痛感。解決策を模索するなかで、学生時代に学んだ設計学・サービス工学のプロジェクト活動への応用を着想した「プ譜(プロジェクト譜)」は、進行設計を計画書ではなく「譜面」として表現することで、管理に寄りすぎず、柔らかな進め方ができる手法として、静かながらも長年の支持を得ている。

組織マネージャ、ITプロマネ、二児の父という三足のわらじが履ききれなくなって、2019年5月に独立。企業研修や実務支援に取り組むなかで、どの業界、企業、人にも共通する悩みがあると理解し、なにか一助になりたいと思いながらも試行錯誤を続けている。近年はプ譜を用いた壁打ちセッションを試行中。

著書

・予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)
・見通し不安なプロジェクトの切り拓き方(宣伝会議)
・紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本(翔泳社)
・“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで(翔泳社)
・決まるプレゼン・会議の組み立て 意思決定のための「場」の演出論(ビジネス教育出版社)

4年ぶりに、新刊が発売!

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