
プロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダー育成について、こんなことを感じていませんか?
- OJTで経験を積ませているが、なかなか自走できるようにならない
- プロジェクトが炎上するたびに、ベテランが火消しに入る構造が変わらない
- 研修を受けさせたが、現場に戻ると元通りになってしまった
- ベテランPMが退職・異動したとたん、プロジェクトが回らなくなった
こうした悩みを抱える人事担当者・経営層の方は、少なくありません。そして多くの場合、その原因は「本人の努力不足」でも「研修の質」でもなく、育成の構造そのものにあるのです。
この記事では、PM能力開発がOJTだけでは限界を迎える理由と、その限界を補う具体的なアプローチを整理します。
なぜOJTだけではPMが育たないのか
OJTは、多くの企業でPM育成の主軸になっています。「現場で経験を積ませるのが一番」という考え方は自然ですし、一定の合理性もあります。
しかし、プロジェクトマネジメントという仕事には、OJTと相性が悪い構造的な特徴があります。
① 成功体験しか学べない
順調に進んだプロジェクトでは、「なぜうまくいったか」が曖昧なまま終わりがちです。担当したPMは「なんとなく乗り越えた」という感覚だけを持ち、再現性のある学びを得られていないことが多いです。
一方、炎上プロジェクトでは本来こそ多くを学べるはずですが、火消しに追われて振り返る余裕がありません。
② 暗黙知が言語化されないまま引き継がれる
ベテランPMが持っている判断力や調整力は、多くの場合「経験から来る勘」として蓄積されています。それ自体は価値あるものですが、言語化されていないため、若手には伝わりません。
背中を見て学べ、という育成は、伝わるものと伝わらないものの差が大きすぎます。
ちなみに、PMとしての思考の質には4段階の成長ステップがあります。

第一段階 思考の負荷も成功確率も低い
浅い検討のプロジェクト 例:「とりあえずDXする」
第二段階 思考負荷は高いが成功確率が上がらない
分析は多いが戦略が弱い 例:「大量の資料はあるが意思決定が曖昧」
第三段階 思考負荷が成功確率に寄与する
検討が実際に成功確率を上げている
例:「問題を多角的に分析し、将来シナリオを幅広く想定し、ベストな一手を選択する」
第四段階 軽い思考でも成功確率が高い
構造が非常に良いプロジェクト
例:「過去の豊富な経験から、最初に倒すべきセンターピンが手に取るようにわかる」
③ 経験の質が、プロジェクトの運次第になる
どんなプロジェクトにアサインされるかで、学べることが大きく変わります。難易度の高い案件を経験した若手と、比較的平易な案件しか経験していない若手とでは、数年後に大きな差が生まれます。
しかしそれは「育成の成果」ではなく「アサインの結果」にすぎません。
④ フィードバックをくれる人がいない
PMの仕事を適切に評価・フィードバックできるのは、同じ目線を持つ経験者に限られます。しかし多くの組織では、上司は現場を離れており、同僚PMも自分のプロジェクトで手いっぱいです。
若手PMは「自分のやり方が正しいのかどうか」を確かめる手段がないまま、経験だけを積み重ねています。
⑤ 学ぶ余裕が、構造的に生まれない
プロジェクトの渦中にいるPMには、立ち止まって考える時間がありません。「なぜこの判断をしたのか」「次回はどう変えるべきか」を整理する時間は、プロジェクトの外側に設けなければ生まれないのです。
OJTが機能しているように見えて、実は機能していないサイン
以下の状況が一つでも当てはまるなら、育成がOJT任せになっているサインかもしれません。
- 特定のベテランが複数のプロジェクトを掛け持ちしており、その人がいないと判断が止まる
- 若手PMが「とりあえず進めています」という報告しかできず、判断の根拠を説明できない
- プロジェクト終了後に振り返りをしても、「次回に活かせること」が出てこない
- 研修直後はモチベーションが上がるが、3ヶ月後には元通りの行動に戻っている
- PMの育成を「現場に任せている」が、現場から育成についての声が上がってこない
これらは「本人が悪い」のではなく、育成の仕組みとして学びを引き出せていないことのあらわれです。
では、必要なのはなにか?OJTを「補う」3つのアプローチ
OJTを否定したいわけではありません。現場で経験を積むことは、PM育成において不可欠です。ただ、OJTだけでは補えない部分があり、そこを意図的に設計する必要があります。
アプローチ① 判断プロセスを言語化する仕組みをつくる
PMが「なぜその判断をしたか」を記録・共有できる仕組みを作ることが、育成の土台になります。
たとえば、プロジェクトの状況・関係者・課題・打ち手を一枚の図に整理する「プ譜(プロジェクト譜)」のようなフレームワークを使うと、PMの思考プロセスが見える形になります。これは本人の振り返りにも使えますし、上司や人事がフィードバックを与える材料にもなります。
参考 :プロマネとしての評価向上のために|結果ではなく、プロセスの価値を上司や顧客に「認知」してもらう方法
判断を言語化する習慣が組織に根付くと、暗黙知が共有知になり、育成のスピードが上がります。
アプローチ② 伴走型の外部支援を活用する
現場に入り込んで、実際のプロジェクトの状況を見ながら一緒に考える「伴走型」の外部支援は、OJTが持つ弱点を補う有効な手段です。
一般的な座学研修との違いは、「リアルな問いに向き合える」点にあります。実際に進行中のプロジェクトで「この判断、どう思いますか?」と問える環境は、教室では再現できません。
また、外部の視点が入ることで、組織の中では当たり前になっていた非効率や構造的な問題が見えやすくなるという副次的な効果もあります。
アプローチ③ 振り返りを「学びの資産」に変える仕組みをつくる
プロジェクトが終わったとき、「お疲れさまでした」で終わらせない仕組みが必要です。
具体的には、プロジェクトの振り返りを「次のプロジェクトで使える問いと答え」の形に整理し、組織として蓄積していく仕組みが有効です。個人の経験を組織の知恵にする、この一手間が、長期的なPM育成力の差を生みます。
OJT任せにし続けることのリスク
育成の構造を変えないまま時間が経つと、以下のようなリスクが積み上がっていきます。
PM人材の属人化が加速する
特定のベテランへの依存度が高まり、その人が抜けた瞬間に組織全体のプロジェクト遂行力が落ちます。これは「いつか来るリスク」ではなく、多くの企業がすでに直面している問題です。
若手PMのモチベーションと離職に影響する
「なんとなくやっている」「評価されている感覚がない」「成長しているのかどうかわからない」という状態が続くと、若手は別の場所に活躍の場を求めます。PM候補が離職していくという形で、育成の失敗が顕在化します。
組織のプロジェクト遂行力が上がらない
個別のプロジェクトが終わるたびに学びがリセットされ、同じ失敗が繰り返されます。この構造が固定化すると、新規事業や組織変革といった難易度の高いプロジェクトに、安心して人を立てられなくなります。

まとめ
プロジェクトマネージャーがOJTで育ちにくい理由は、本人の能力や努力の問題ではありません。プロジェクトマネジメントという仕事の性質と、OJTという育成手法の相性の問題です。
必要なのは、OJTを捨てることではなく、OJTが補えない部分——判断の言語化、外部からのフィードバック、振り返りの構造化——を意図的に設計することです。
「どこから手をつければいいかわからない」という方は、まず自社のPM育成の現状を棚卸しするところから始めてみてください。
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この記事の著者

プロジェクト進行支援家 後藤洋平
ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
プロジェクト能力開発やPM/PL人材不足問題の解決のために、日々、試行錯誤しながら、活動しています!
著書
・予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)
・紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本(翔泳社)
・“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで(翔泳社) 等
提供サービス実績
・現場リーダー層のプロジェクトマネジメント能力や業務課題の現状調査
・カスタマーサクセス、導入コンサルティングの組織、スキル要件整理、プロジェクト標準見直し
・PMO部門責任者の退任にともなう後任探し、引き継ぎのための業務棚卸し支援
・社員育成体系のリニューアルにともなう社内キーパーソンへのインタビュー、問題整理 等
プロジェクトや組織の悩みがあれば、ぜひお寄せください!
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参考
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