タスクの無間地獄に落ちない、課題管理のコツ【テンプレートあり】

この記事について

今回のテーマは「課題管理」

 プロジェクトマネジメントのいち分野に「課題管理」と呼ばれるものがあります。特にIT開発プロジェクトの現場では、きっと多くの人に、課題管理をしたり・されたりという経験があることでしょう。

 しかし、ひとくちに課題管理といっても、そのやり方や実体は千差万別です。現場によって、とても有効な課題管理がされている場合もあれば、ToDo管理やWBSとごちゃごちゃになってしまい、なんだかよくわからない課題管理になってしまう、という場合もあります。

課題管理における、よくある悩み

 例えば、課題管理のなかで、こんなお悩みはないでしょうか。

 こうした悩みがあるとしたら、その現場は、課題管理の本来の目的や意味を、そして適切なやり方を、見失っています。

 課題管理は、ある意味では、計画立案よりも大事な行為です。計画がいまいちはっきりしていなくても、課題管理さえしっかりやっていれば、意外とどうにかなるものだったりします。逆に、計画はしっかり立てているのに、課題管理はダメ、ということだと、せっかくの計画も台無しになってしまいます。

課題管理は、プロジェクトワークにおけるリーダーシップの具現化

 「社会課題」とか「経営課題」とか「課題解決」とか、なんだか気づけば、社会のあちこちで「課題」という言葉が使われています。プロジェクトワークそのものが、社会や現場における課題を解消するために組成されるものだったりします。
 社会に「課題」という言葉が出回りすぎたせいで、なんでもかんでもとりあえず、問題になりそうなものを「課題」と呼べばそれでいい、という雰囲気があります。

 プロジェクトワークにおいて「課題」という言葉を、なんとなく雰囲気で使うことは、自殺行為に等しいといえます。

 なぜか。

 そもそもプロジェクトとは「無限に発生する問題や要望に対して、有限の資源を用いてこれを解決すること」だからです。

 プロジェクトワークでは、誰かが誰かにやってほしいことは、無限に発生します。「あれも、これも」の世界です。
 しかし、当然ながら、それらに対処するための人間、時間、お金や知識、ノウハウといった資源は、有限です。有限の資源で、無限の結果を出すことは、誰が考えたって、不可能に決まっています。

 無限に広がる「やりたいこと」のなかから「本当に大事なこと」を見つけ出すためにこそ、課題管理は実行されなければなりません。

 プロジェクトとは、「あれも、これも」式に、無限に広がる風呂敷を、誰かが広げることから始まるわけですが、それを閉じるためには誰かが「あれか、これか」という選択を突きつけなければなりません。つまり「本当に実現したいことは、なんですか」「そのためなら、実現を諦めることはなんですか」という視点がなければいけないのです。

 例えば、以下のような整理こそが「課題管理」の観点として、筆者がオススメしたい、まさにベスト・プラクティスと呼びたいものです。

項目内容
課題の発見いつ、誰が課題として認識したか
課題の内容課題が発生している領域
課題の種類(技術的or人的 等)
影響範囲(誰に影響するか、どの程度影響するか)
対処に必要な資源(時間、お金、技術)
対処の難易度
原因区分(責任区分)当初交わした契約に照らし合わせて位置づけを明確にする
(仕様の追加や変更 or スコープの変更 or ミス等)
対応方針そもそも課題として正式に認定して着手するかどうか
いつまでに、どのように対処方針を決めるのか
いつまでに解決したいか
対応する選択肢はどの程度あるか
誰がその課題解決をリードするのか
対応方法取りうる選択肢
各選択肢のメリットとデメリット
各選択肢の成功確率
対応ステータスと結果着手したかどうか
解決したかどうか
解決した結果をしかるべき手続きで確認したかどうか

 ポイントは、以下の通りです。

 なんとなく発生した課題を、なんとなく台帳に書いて、なんとなく連絡だけしておく、といったことでは、課題(らしきもの)が雪だるま式に膨れ上がるだけで、なにも解決しません。

 このプロジェクトで、実現したいものはなにか。

 本当に譲れないものは、なにか。

 それと引き換えに、諦めることができるものはあるか。

 そのようなシビアな検討ができて、初めて、課題管理をすることに、意味が生じます。こうした問いを関係各位に提示することは、勇気が必要です。勇気を持って、物を申すことこそが、プロジェクトワークにおいて、あるべきリーダーシップのありようなのです。

キーワードは「ノックアウト・ファクター」

 勇気を持って物申せ、とはいいましたが、とにかくやたらめったらに発言すればよい、ということではありません。蛮勇と勇気は別物です。適切な観点を持てば、物申すための勇気に、胆力は不要です。

 どういうことか。要するに、そのプロジェクトを進めていくなかで「これが起きたらオシマイだ」というような、致命的な問題が発生しないように、先を読みましょう、ということです。「これが起きたらオシマイだ」というような、いわゆる致命的な問題のことを、プロジェクトマネジメント用語で「ノックアウト・ファクター」と呼びます。

 などなど、ノックアウト・ファクターは、プロジェクトによっていろいろなパターンがあります。進捗やフェーズによっても変わりますし、外部環境からの影響によっても、変わっていきます。ですから、すべてのプロジェクトに必ず登場するノックアウト・ファクターというものがあるわけではなく、現場ごとに、状況を見ながら考えて行く必要があります。

 絶対に、押さえておかないといけないのが、ノックアウト・ファクターです。しかし、ウナギのように、ぬるりと逃げてしまい、とらえどころがないのが、ノックアウト・ファクターです。

 どうすれば、ノックアウト・ファクターを見抜くことができるのか。以下の3つの観点を、ご参考ください。

第一の観点

●目指す成果物はなにか
●その目的はなにか
●価値の優先順位とバランス

第二の観点

●達成するための工程の把握
●中間成果物や部品の前後関係
●作業に必要なスキルや資源

第三の観点

●クリティカルパス
●ミッシング・リンク
●ルビコン川

 まずは、第一の観点について。当然ですが、「ここに着地させたい」というゴールの設定がなければ、何が起きたらノックアウトなのか、ということは、語りようがありません。「なんのために、なにを作ろうとしているのか」すべてはここが、発想の起点となります。
 ただそこで、もう一歩深く、考えていただくとよいかと思います。作り上げたい成果物のQCD(品質・コスト・納期)のなかで、何が最優先事項で、どの要素は、多少なりとも妥協の余地があるのか。そのような文脈を適切に理解することで「何が起きたらオシマイ」なのか、ということが、クリアに見えてきます。

 第二の観点は、第一の観点をさらに詳細に分解する、というイメージです。結局のところ、このあたりはWBSをきちんと書けているか、そして必要な人や材料、設備その他をアレンジできているか、という話につながります。

 最後の「第三の観点」が、ノックアウト・ファクターを見抜く最大の視点です。
 クリティカルパス、とは、プロジェクトにおいて作業の並列化が不可能で、もし遅延した場合、直ちにプロジェクト全体に影響を及ぼすような、一連の作業の繋がり合いのことです。クリティカルパスは、もっとも確実に舗装すべき道です。しかし、その詳細を誰も考えていなくて、必要な物資や人が、必要なタイミングで投入されず(ミッシング・リンク)、無意味な待ち時間が発生してしまう、なんてことも、意外とよくあります。
 ルビコン川とは「これを渡ったら、引き返せないよ」という、つまり手戻りが起きた場合に、重大な影響が出るような、不可逆的な分岐点です。

 以上のように、ゴールを達成するためのプロセスを、できる限り細かくイメージングし、そのうえで、外部環境やチーム内部の状態を考えていくと、「これが起きたらヤバい」「いつまでに、あれをこうしていないと、マズい」ということが、明確になります。

テンプレートはこちらから!

 工程が複雑で、問題が起きた場合のダメージが大きいようなプロジェクトワークは、「これが起きたらオシマイだ」ということを、事前に見抜けるかどうかが、生死をわけます。
 逆に言えば、ノックアウト・ファクターが見抜けるかどうか、事前の対処能力があるかどうか、ということが、プロジェクトマネージャのスキルにおける超重要ポイントである、ということです。

 課題管理とは、プロジェクトを楽にするために、することです。「あれも、これも」式の、課題の無限列車に押しつぶされそうになったら、ぜひ、ノックアウト・ファクターを考える3つの観点を思い出してみてください。

 また、本文でお話しした課題管理を、実際に業務に落とし込むためのテンプレートを配布しています。

 下記のリンクより、ダウンロードください。

https://www.gotolab.co.jp/wp-content/uploads/2025/06/IssueManagement_gotolabSpecialTemplate.xlsx

本テンプレートの利用にあたりまして


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この記事の著者

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家
後藤洋平

1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。

ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。