
この記事について
この記事では、プロジェクトの振り返りについて、考えてみます。未知のことが多い取り組みでは、当たり前ですが、やるまえから完璧な計画は立てられません。仮説としてのアクションプランを描き、得られた教訓から、再び立ち上がる必要があります。
プ譜を使うことで、プロジェクトに関する教訓をしっかりと汲み取ることが可能となります。ぜひ、ご参考ください。
もくじ
1 今回のテーマは「振り返り」
2 振り返りと再構想の具体的な方法
3 よく受ける質問
4 筆者の実体験における、もっとも劇的だった振り返り&再立案
5 まとめ
今回のテーマは「振り返り」
色んな場所で話していることですが、プ譜は「作って終わり」ではありません。もちろん、プ譜の形で「いまの状況と、今後の方向性」を整理することにも、大きな意味はあるわけですが、実行した結果を振り返り、もう一度考え直す、という過程こそが、本当に大切なことです。

ルーチンワークの世界と、プロジェクトの世界は、昼と夜、光と闇、と言っていいくらいに、逆の原理が支配しているのです。未知の要素が多いプロジェクトの世界では、失敗するのが当たり前。しかしとはいえ、失敗しても良いわけではありません。経済としても、人情としても、成功を目指したい。ではどうするか。
取り組みそのものの沈没はしないように、しかし積極的に、筋の良い失敗をして、そこから学び、ありたき未来に、にじりよっていくしかないのです。
結局のところ、あらゆるプロジェクト管理の技法は、リスクマネジメントのためにある、と、言えるかもしれません。しかし、人間は、全知全能ではない。教科書どおりのリスク管理の方法を学ぶのも大事ですが、ほんとうの意味でリスク対応をしていくためには、己の身体知を磨いていくしかありません。
プロジェクトの身体的感性を磨くとは、どういうことか。己の大局観の有限性を、知る、ということです。昔の人は、これを、無知の知と呼びましたが、まさに、己の小ささを理解することでしか、プロジェクトの力は伸びては行きません。そして、それを理解するためにもっとも手っ取り早いのが、まさにこの「プ譜を用いた振り返り」です。
振り返りと再構想の具体的な方法
振り返りの観点については、以下のスライドが参考になるかと思います。

振り返りをしたあとに、次の局面を再立案するためのステップは、以下をご参考ください。
①廟算八要素に対する認識の変化を記入する
②獲得目標に変更は必要ないか?を考える
③勝利条件、中間目的に変更は必要ないか?を考える
④上記の考察を終えた後に、施策を考える
よく受ける質問
Q.課題がある、未達である、等のネガティブな振り返りばかりになってしまうのは問題ですか?
A.問題ありません。むしろ、事前の想定と異なった結果のほうが重要な示唆を与えてくれますので、想定外は、遠慮せず、バンバン書き込んでいきましょう。
Q.獲得目標や勝利条件の変更を容認すると、ゴール設定の下方修正につながり、妥協的なプロジェクト運営になるのではないか
A.下方修正になるかどうかは、第一に推進者の意気込みの問題であり、変更を容認するからといって、ただちに妥協的となるとは限りません。
むしろ上方修正の可能性だってあるわけですし、そもそもプロジェクト活動において直面する諸問題は、いわゆる「創造的問題解決」が求められる類のそれであり、上方修正か、下方修正か、という二択に陥っているようでは、いけません。
また、補足ですが、「妥協的であること」が常にネガティブな、望ましくない方向性を意味するとは限りません。時と場合によっては、「妥協ができないこと」が、膠着状態の打開を困難にします。
Q.プ譜を書くことで、あらゆるリスク対策ができますか?
A.「あらゆるリスク」となると、どんな手段を用いたとしても、難しいかと思いますが、しかし、プ譜で表現したものを複数の有識者がレビューすることで、かなりの予防が可能になります。また、いわゆる兵棋演習の要領で、今後起きる未来をシミュレートすることも、リスク対策の意味で、有効です。
筆者の実体験における、もっとも劇的だった振り返り&再立案
「紙一枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本」(翔泳社)でもご紹介していますが、筆者自身の最大の学びは、独立した頃に味わったように思います。
第一局面 独立直後

第二局面 何が起きたかの振り返り

得られた気づきと状況変化、そして再構想

※その他、多くの事例が掲載されていますので、ぜひご覧ください!

まとめ
プロジェクトの振り返りは、ダイナミックであればあるほど、意味が深まるものです。つまり、大事なのは「こうせねばならない」「そういうものだ」と思っていたことが「実はそうではなかった」と気づく瞬間なのです。
つまり、己の勘違いに気づく瞬間。卵の殻が、パカンと割れた瞬間。
禅の言葉に、啐啄同時、という言葉があります。雛が卵の中から外にコツコツするのと、親が雛に向かってコツコツする、両者のタイミングが一致した、その瞬間に、悟りが開けるのだ、という意味です。プロジェクト活動の視界が開ける瞬間とは、まさにそれに似ています。
「あっ」という瞬間。
それは、人から言葉で教えてもらうことは不可能なのです。自分自身が、自らの実体験として、内側からの気づきとして、得られなければならないものです。
自分のなかにある「当たり前」のほとんどは、実は、捨ててしまって構わないのです。
廟算八要素は、その表現内容もさることながら「変化」に注意を払うべきであって、廟算八要素の変化は、実は、獲得目標や勝利条件のダイナミックな更新と、深いところで連動しています。「いま、ここに至って、こうなったからこそ、こういうふうに、目指しなおす」という思考のダイナミズムが決め手となります。
この記事の著者

プロジェクト進行支援家
後藤洋平
1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。
ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。
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