PM/PL育成における「アサイン」戦略

この記事について

着目する問題:
プロフェッショナルなPM/PLへの、遠く険しい道

 当たり前の話ですが、一人の人間が、プロジェクトマネージャやプロジェクトリーダーとして成熟していくのは、一朝一夕のことではありません

 いや、そもそも、PMやPL、という役割に限らず、社会人として成熟していく、ということは、1年2年の話ではありません。5年、10年と、酸いも甘いも噛み分けていくことで、人は、社会のことや、自分自身のことを、理解していくものです。成功体験と失敗体験の両方があってこそ、成熟の機縁に恵まれます。
 数々の現場や状況を経験し、先輩後輩や顧客、パートナー企業など、仕事を通じて、多くの人と関わりを持つ、ということが必要です。そのなかで、長所を真似たり、短所を見て我がふりを直したり、ということは必須です。

 一般論としての経営学、組織論、法律論などを学ぶことも大事です。かたやで、いわゆるドメイン知識と呼ばれるような、業界・職場固有の具体的な理解も欠かせません。
 ロジカルシンキングやクリティカルシンキングなどの、いわゆる思考力も磨かなければなりません。超一流のPMを目指すとなると、一生かけて学び続けることが必要です。

 一方、目の前の困難なミッションをクリアしていくために、そんなに悠長なことは言っていられない。いまいるメンバー、メンツでなんとかしないといけない、というのも現実。

 その理想と現実を結びつけるために考えたいキーワードが、「機会」の言葉です。

PM/PL能力開発は「機会」を中心にせよ

 このコラムで、唯一覚えていただきたいのは、以下の図です。

 PM/PLとして力を発揮するためには、当たり前ですが、スキルや知識、経験が必要です。それだけでなく、短い時間で外から姿や行動を観察するだけでは、なかなか見えてこない内在的な資源を持っています。これらに加え、実績や信用力、人間関係や人脈といった社会的資源を有していて、ゆえにこそPMとしての力を発揮することができます。

 ただし、それらの資源は、ただ持っているだけでは、宝の持ち腐れです。その人が有する内的・社会的資源を、まさに発揮するための機会(つまり業務やミッション、立場)与えられて、初めて力が花開くものです。

 では、機会が生じる源泉とは、どこにあるのか。

 所属している企業やその顧客、あるいはそれらを取り巻く業界や社会に存在する、様々な課題こそが、機会の源泉です。

PMスキルを伸ばす「機会」との出会い方

 その人が有する内的・社会的資源が、外部環境にある課題と、機会という形で結びつく。両者に釣り合いが取れていた場合に、その人の能力は余す所なく引き出され、それが成果として結実しながら、新たな資源の蓄積となっていく。

 PM/PLとしての成長過程とは、こうした循環的なものです。

 PM/PLとしての能力開発をしようと考えると、つい、スキルや知識を身につけなければならない、と、思ってしまいがちなところがあります。もちろん、そこも確かに大事ですが、そこが一番大事かというと、そんなことはありません。

 大事なのは、その現場に立った当事者として、プロジェクト課題を適切に見出し、手を伸ばし、試行錯誤もしながら、その現場が求める答えを出すことなのです。

 PM能力の本質とは、「その人が、過去、どれだけの真剣勝負の場で、答えを出してきたか」です。

上司ができる最大の育成施策は「アサインの工夫」

 極論すれば、結局のところ、いくら座学や研修をやっても、PM/PL能力の育成には、役立ちません。もちろん、スタートアップや伸び悩みなど、ステージに応じて、適切なコンテンツに出会うことが、無意味だとは申しません。そうした学びが次の一歩のヒントになることも、時にはあります。それは命題として、真ではあります。

 それも承知の上で申し上げたいのは、真剣勝負の場で、自分なりの答えを出すという経験は、それ自体が、まったく次元の異なる成長要因なのだ、ということです。

 もちろん、その機会が、ハードルが高すぎて、本人が折れてしまっても困りますが、イージーモードでは、単に時間の浪費です。

 では、どう考えればよいか。

 ということではなく

 と、このように、考えてください。

 真に人が主体的に課題と関われるかどうかは、その人間の根底にある「内的動機」「原体験」「所作」こそがキーファクターとなっています。

 「内的動機」とは、無意識のうちに「心地いい」「楽しい」「面白い」と思える対象です。人に喜ばれるのが楽しいと思う人もいれば、新たな学びを得るが面白い、という人もいます。眼の前に与えられた課題のなかに、自分の動機に結びつく要素が多ければ多いほど、自然と行動や学びは増えます。逆もまた然りです。
 「原体験」とは、とくに若いうちに強烈な印象を受けた出来事や、影響を受けた人です。手本になるような人のイメージを持っているかどうかで、行動の質は変わります。
 「所作」とは、無意識のうちに取っている行動です。なんとなく、というレベルで、必ず時間を守る人もいます。つい、というレベルで、時間にルーズな人もいます。無意識のうちにやりがちな行動によって、引き寄せられる縁もあれば、遠ざかる縁もあります。

 なんとなく、上司は部下を、指導し、教育し、監督するものだ、というイメージがあります。日々の業績管理のなかで、確かにそうしたものが求められる局面も、あるかもしれません。しかし、本当の意味で部下に成長をしてほしかったら、やっぱり、真剣勝負のなかで、自ら挑戦し、成功も失敗も味わい尽くして、自ら気づいてもらうしかないのです。
 そのために上司ができることは、きっと「機会との縁を導く」ということなのだと思います。部下のPM能力向上を願うなら、ぜひ、その部下がどんな動機を持っているのか、どんな理想像や世界観を持っているのか、ということを「まずは、知ろうとしてみる」というアプローチをしてみていただきたいと思います。


この記事の著者

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家
後藤洋平

1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。

ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。

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