「要求」「要件」の定義がずれる

今回のQuestion

Answer

先輩の忠告は正しいのですが、「気をつけて」とだけ言われても、具体的にどう気をつければいいのかは分かりませんよね。業界や会社、部署などに特有のローカルルールのようなものがあったり、人によって言葉に対するイメージにズレがあるのは、そのとおりなのですが、そもそもこれらの言葉には、一般論としての正しい定義が存在しています。

そのようなブレに対応する最善の方法は、正しい定義と意味を理解しておくことです。これを理解すれば、おかしな話が漂ったときにセンサーが働くようになります。今回は、以下の3つのフレームワークで、その内容を解説します。

①要求仕様(価値探求)

②要件事実構造(契約と交渉)

③要件定義(契約と交渉)

フレームワーク① 要求仕様

要素:要望・要求・要件・仕様・設計

一般論として、そもそも「要求」と「要件」は、要望→要求→要件→仕様→設計という整理の一部として位置づけられます。

要望・・・ビジネスとして正式に相手に求めているものではない願望。
要求・・・対価と交換する前提で、取引先に正式に提示される、その開発によって叶えたい効果。
要件・・・要求を叶える手段や方法と、取引条件もあわせて双方で合意した内容。

「お客様第一」というと、お客さんのあらゆる要望を叶えなければならない、というイメージがありますが、正式に要求として提示されていないのに叶えてもしょうがありません。また、本来「要求」と「要件」は明確に別物であり、「要件がまだ固まっていない」と言えば、それは「要求を条件にまで絞り込む作業が終わっていない」という意味になります。

フレームワーク② 要件事実構造

要素:趣旨・要件・効果

「要件」の言葉について、法律・契約の世界の世界に照らし合わせると、もう少し深いものが見えてきます。要件事実構造という言葉があります。ここでの構造は、趣旨(なぜその決まりがあるのか)・要件(何を満たせば)・効果(何が起きるか)という、いわば条件式です。「この要件を満たせば、この効果が発生する」という論理構造そのものです。

要件定義とは、実は、ふたつのことをやる工程なのです。

①作り出そうとしている成果物に対して、この条件を満たすと希望する効果が発生する、という構造を見出す。
(機能や仕様、実現手段)
②やろうとしている取引そのものについて、それが成立する取引条件を見出す。
(納期や費用、支払い条件、知財や権利の取り扱い、免責事項など)

フレームワーク③ 要件定義

要素:趣旨・制約・要件・効果

多くの現場で、機能や仕様について「こうだったらいいな、ああだったらいいな」を並べて、それに対して見積を出して、高いか安いか、予算に収まるか、ということが行われています。それは実は、あまりよい進め方ではありません。

要件定義とは、知的行為としてそもそも大変難易度の高いものであり、適切に取り扱わないと、無駄に時間がかかりますし、クオリティの低い結論を導いてしまいます。そうならないために活用するとよいのが「制約」の概念です。

企画段階での「要件」には、趣旨(この要件が必要な理由)・制約(前提となる予算や納期などの枠)・要件(満たすべき条件)・効果(満たされたときに何が実現するか)の4つを、必ずセットで書き出します。この4点セットが揃って初めて、その「要件」は、あとから解釈がぶれない、確定した要件と呼べるものとなります。

まとめ

「要求」「要件」という言葉自体の定義と意味を、個別の相手とすり合わせようとする必要はありません。あなた自身が、企画段階で使うべき「要件」の正しい定義について、趣旨・制約・要件・効果の4点セットが揃ったものである、とあらかじめ認識しておけばよいのです。

他部署や社外の人との会話で「要件」という言葉が出てきたら、まずこの4点が揃っているかを確認する。揃っていなければ、それはまだ要件ではなく要求である、とその場で指摘してよい。これが、先輩の忠告に対する、いちばん具体的な返答になると思います。

参考:あなたの悩みの解決法が、必ず見つかる一冊。

 本書は、著者の後藤がこれまでさまざまな企業のプロジェクト支援や研修の現場で培ってきた経験をもとに、「実際に使えるフレームワーク」を体系的にまとめた一冊です。

 東大在学時代の堺屋太一ゼミ「知価社会論」、設計学・サービス工学研究室での学び。新卒就職後の、製造業DXベンチャーでの現場体験、次の会社での新規事業悪戦苦闘。
 さらにはSaaSの会社に転職し、カスタマーサクセスの立ち上げやSIプロジェクト地獄。独立してからの異業種PM支援や人材組織開発、自前のプロダクトアウト七転八倒。そのなかで試行錯誤した、メンタル未病ケアやストレス対策。

 約20年をかけて壁にぶつかり、悩み、突破してはまたぶつかり、ということをやってきた全ての戦訓と気付きを濃縮還元し、「使えるところだけ」をテキストにしました。

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執筆者のご紹介

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家
後藤洋平

1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。
製造業DX・人材ビジネス・IT開発・新規事業などの経験から、プロジェクト活動における「未知」という難しさを痛感。解決策を模索するなかで、学生時代に学んだ設計学・サービス工学のプロジェクト活動への応用を着想した「プ譜(プロジェクト譜)」は、進行設計を計画書ではなく「譜面」として表現することで、管理に寄りすぎず、柔らかな進め方ができる手法として、静かながらも長年の支持を得ている。

組織マネージャ、ITプロマネ、二児の父という三足のわらじが履ききれなくなって、2019年5月に独立。企業研修や実務支援に取り組むなかで、どの業界、企業、人にも共通する悩みがあると理解し、なにか一助になりたいと思いながらも試行錯誤を続けている。近年はプ譜を用いた壁打ちセッションを試行中。

著書

・予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)
・見通し不安なプロジェクトの切り拓き方(宣伝会議)
・紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本(翔泳社)
・“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで(翔泳社)
・決まるプレゼン・会議の組み立て 意思決定のための「場」の演出論(ビジネス教育出版社)

4年ぶりに、新刊が発売!

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