生成AI時代、士業の事業構造を描き直す

今回のQuestion

Answer

「書類作成だけでは生き残れない」という危機感、よくわかります。ある意味では、あらゆるホワイトカラーが直面している不安とも呼べるかも知れません。

その不安がどこから来ているのか。それは、自分たちの商品を「書類」と定義していることから来ています。しかし、顧客が買っているのは書類そのものではなく、書類の先にある安心や前進のはずです。生成AIは、書類という「手段」の価値を下げましたが、その先の価値は下げていません。

その点を意識したうえで、プロジェクトフレームワークを用いたビジネスモデル変革案を考えてみます。

①ファイブフォース分析(ビジネス)

②ジョブ理論(価値探求)

③ビジネスモデルキャンバス(ビジネス)

フレームワーク① ファイブフォース分析

要素:既存の競合・代替品・新規参入・売り手の交渉力・買い手の交渉力

まず、危機感を漠然とした不安として使うのではなく、構造的に言語化し、対象化するために「ファイブフォース分析」をお勧めします。この業界の変化を5つの力に当てはめると、生成AIは「代替品」として現れ、さらに顧客が自分で書類を作れるようになることで「買い手の交渉力」も同時に上がっています。

●書類作成の単価が下がる
●そもそも発注量が減る

これは、業界構造が変わった結果として、一定程度は受け入れる必要はある。また「頑張って書類の質を上げる」という方向が、構造的に分の悪い戦いだと分かります。

一方ここで、着目すべきものは、たとえば以下のような現象ではないでしょうか。

●素人判断とAI生成の悪魔合体による、ツッコミどころ満載の案のレビューをさせられる士業者が増加
●特許審査や入札審査側など、書類の受け容れ側の組織が書類をさばききれず、キャパオーバーしている

フレームワーク② ジョブ理論

要素:状況・動機・葛藤・進歩・雇用

たとえば「レビューさせられ問題」を、ジョブ理論のフレームで読み解いてみます。

状況:創業直後の経営者が、生成AIで申請書類のたたき台を作り終えた
動機:早く出して、本業に戻りたい
葛藤:抜け漏れや解釈違いで差し戻されたり、あとで問題になったりするのが怖い
進歩:「これで出して大丈夫」と、責任を持って言ってくれる人がいる状態
雇用:士業を、書類を「作る人」ではなく「最終確認する人」として雇う

これまでは「書類」がまさに、形として見える「安心」の担保となっていた。
これからは、別のなにかで「安心」を担保していく。

いま士業が問われているのは、その命題なのだと思われます。その問いは「モノからコトへ」のフレーズで製造業がサービス化を問われてきた、2000年代以降の流れを思い起こさせます。

フレームワーク③ ビジネスモデルキャンバス

要素:提供価値・顧客セグメント・チャネル・顧客との関係・収益の流れ・主要資源・主要活動・キーパートナー・コスト構造

提供すべき価値が明確化されたら、次に考えるのが「ビジネスモデル全体像」です。そのツールとしては、ビジネスモデルキャンバスが優秀なので、お勧めです。

上記の例で具体化すると「書類提出前の門番、ゲートキーパーサービス」という方向が考えられますし、それを軸とした新たな価格体系や依頼受け付け方法を考える、という方向性が考えられます。そのなかで、自社のAI活用の方向性も定める。ちゃんと自社の収益が上がる方向性で実装方針を見つけていく・・・というふうに、考えます。

ここでワンポイントアドバイス。ビジネスモデルキャンバスを使うコツは、「顧客のビジネスモデル」と「自社のビジネスモデル」を両方書いてみる、両方考えてみる、ということです。最大のポイントは、「顧客のビジネスモデルを繁栄、繁盛させる形」と「自社が安心して、安定的に事業運営できる形」をいかに両立させるか、です。そのための、自社や自事業の価値を定義するだけでなく、顧客とのつながり方、事業収益構造を再定義していく。

まとめ

市場環境の変化により、対価として交換できていた成果物が、より抽象度の高い大きな価値の一部に格下げされる。これは、産業界で常々繰り返し起きてきた現象でした。「これさえやれば安泰」という安全安心確実な基地が崩れる瞬間は、大きな不安も伴いますが、殻を破り、新たなフロンティアを切り拓くきっかけでもあります。

そこで頼りになるのが、まさにプロジェクトの知恵とセンス。難しい時代ですが、「サービス化」がキーワードになるのは、間違いありません。試行錯誤の先に、希望を見つけてまいりましょう。

ちなみに・・・

少し簡略化して解説しましたが、実際は、フレームワークを埋めたらOKという世界ではなく、考えては試し、試しては考え直し・・という繰り返しが必須になります。コツは「いま、なにがどこで余っているか」「それをどこにどうやって結びつけるか」という部分に目をつけることです。以下の記事で、フィクションに題材を取りつつ、ケーススタディとしてこの問題を徹底考察しておりますので、よろしければ、ご参考ください。

参考:あなたの悩みの解決法が、必ず見つかる一冊。

 本書は、著者の後藤がこれまでさまざまな企業のプロジェクト支援や研修の現場で培ってきた経験をもとに、「実際に使えるフレームワーク」を体系的にまとめた一冊です。

 東大在学時代の堺屋太一ゼミ「知価社会論」、設計学・サービス工学研究室での学び。新卒就職後の、製造業DXベンチャーでの現場体験、次の会社での新規事業悪戦苦闘。
 さらにはSaaSの会社に転職し、カスタマーサクセスの立ち上げやSIプロジェクト地獄。独立してからの異業種PM支援や人材組織開発、自前のプロダクトアウト七転八倒。そのなかで試行錯誤した、メンタル未病ケアやストレス対策。

 約20年をかけて壁にぶつかり、悩み、突破してはまたぶつかり、ということをやってきた全ての戦訓と気付きを濃縮還元し、「使えるところだけ」をテキストにしました。

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執筆者のご紹介

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家
後藤洋平

1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。
製造業DX・人材ビジネス・IT開発・新規事業などの経験から、プロジェクト活動における「未知」という難しさを痛感。解決策を模索するなかで、学生時代に学んだ設計学・サービス工学のプロジェクト活動への応用を着想した「プ譜(プロジェクト譜)」は、進行設計を計画書ではなく「譜面」として表現することで、管理に寄りすぎず、柔らかな進め方ができる手法として、静かながらも長年の支持を得ている。

組織マネージャ、ITプロマネ、二児の父という三足のわらじが履ききれなくなって、2019年5月に独立。企業研修や実務支援に取り組むなかで、どの業界、企業、人にも共通する悩みがあると理解し、なにか一助になりたいと思いながらも試行錯誤を続けている。近年はプ譜を用いた壁打ちセッションを試行中。

著書

・予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)
・見通し不安なプロジェクトの切り拓き方(宣伝会議)
・紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本(翔泳社)
・“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで(翔泳社)
・決まるプレゼン・会議の組み立て 意思決定のための「場」の演出論(ビジネス教育出版社)

4年ぶりに、新刊が発売!

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