「プロジェクトの進め方」は1つじゃない!8つのタイプ別に考える推進アプローチ

この記事について

着目する問題:
予定通り進まないプロジェクト。どうやって進めたらいい?

 「◯◯プロジェクト」と名のつく取り組みが、なかなかどうも、スムーズにいかない、という経験はないでしょうか。

 実行する「当事者」として向き合う悩みの代表例としては、以下のようなものがあるかと思います。

 あるいは、企業組織におけるビジネス・プロジェクトの「責任者や評価者」として向き合う悩みの代表例としては、以下のようなものがあるかと思います。

 そんな悩みを解決するために、なにか方法がないかと探してみると「プロジェクト・マネジメント」や「プロマネ」といった言葉に出会います。実際に、その教えのとおりにやってみたことが、ある、という人も、おられるのではないかと思います。

「プロジェクト・マネジメント」の一般的なイメージ

 たとえば「プロマネ」という言葉を聞くと、以下の図のようなものを連想する方が多いのではないでしょうか。企画書とタスク表、議事録、この三種の神器を用いて、チームをマネジメントし、タスクを消化していく、というようなイメージです。

 たしかに、こうした考え方は、プロジェクト進行の「基本のキ」であるといえます。しかし、実際のところ、こうしたものを勉強し、実践しても、根本的な悩みは解決せず、困っている方も多いかと思います。

 もう少し本格的にプロジェクトマネジメントの方法論を学びたい、と、思ったときに出会うのは「ウォーターフォール」や「アジャイル」などの言葉です。

ウォーターフォール

 「ウォーターフォール」とは、いわゆる「プロジェクト・マネジメント」という言葉の元祖といいましょうか、もっとも中心的にある考え方です。

 複雑な取り組みは、その最初のうちに、しっかりと企画や計画を立て、成果物や作業工程を詳しく定義し、必要な資源をそろえたうえで、効率的に進めていきましょう、という考え方です。
 言葉そのものは現代に発生したものですが、建設業や製造業、SIer(情報システム開発サービス業)など、大規模な人工物や機械製品を作り上げるうえで、絶対に避けて通れないものですので、考え方の根本的な部分は、文明史の発展のなかで、長い年月をかけて熟成されてきた方法論である、とも言えます。

 ウォーターフォール型の進行の基礎的なイメージを図示しますと、以下のようなものになります。

アジャイル

 「アジャイル」の言葉は、インターネットの普及が本格化した2000年前後に登場しました。
 インターネット上で展開されるソフトウェア産業は、建設や製造業と異なり、技術環境や市場動向の変動が激しいため、あらかじめ壮大な青写真を描くのではなく、とにかく早く(あるいは速く)成果物を世に出して、その反応を確かめたうえで、何度も何度も反復的に拡張していこう、という考え方が発生したのが、その始まりです。
 あらかじめ、ある程度事業やサービスの方向性は見定めておき、まずは最低限のものを作って、出す。反応を見て、また出す。時々、事業モデルそのものも、大きく見直す、という格好で進めよう、という考え方です。

 イメージとしては、以下のようなものです。

 もともとは、IT・ネットビジネスのベンチャー、スタートアップ企業が積極的に取り組んでいた方法論ですが、2025年現在では、ものづくりの分野や大企業でも、広く取り入れられています。「デザイン思考」や「ビジネスモデル・キャンバス」といったビジネス方法論ともあわせて活用されています。
 ちなみに、このアジャイル的な世界観は「最終的な一つの成果物を作るゴールを目指す」のではなく「常に拡張し、成長させていく事業や製品を作る」というニュアンスを色濃く持っています。

 それゆえ、いわゆる「プロジェクト」という言葉の有期性のあるイメージは、少しずれる、ということで「プロジェクト・マネジメント」ではなく「プロダクト・マネジメント」と呼ぶほうが適切だ、という感覚も広く共有されています。

コンカレント

 ちなみに、例えば日本の製造業は、ずっとウォーターフォールをやってきたのか、というと微妙に違います。先に上げた2つの言葉よりは、少し知名度が下がりますが、日本の製造業の強みとして「コンカレント開発」という言葉が長年使われてきました。
 これは、ウォーターフォール的にマイルストンを分離させるのではなく、あえて重ねることで、コミュニケーションの改善やアイデアの発展、全体的なスピード感の向上を目指す、というものです。

 さらにちなみますと、ソフトウェア産業も、2000年頃まではウォーターフォール型での開発が当然のように取り入れられてきましたがその過渡期に「インクリメンタル開発」という考え方も提唱されました。

 こちらと製造業におけるコンカレント開発を比較しますと、工程そのものについての考え方は異なっていますが、先に一旦後工程までやっておいて、また戻ってやり直す、という意味では、感覚として近いところがあります。

プロジェクト状況の、8つの分類

 さて、ひとくちに、プロジェクトといってもいろんな進め方がある、ということをお話しさせていただきました。

 こうやって見てみると「プロマネ」って、結局のところ、どうなの?なんなの?という疑問を持たたれる方も、おられることと思います。そんな方に、このコラムでお伝えしたい、たったひとつのメッセージがあります。

 このコラムで、覚えていただきたい唯一の図は、こちらです。

 図の左側に行けば行くほど、その取り組みに関わる関係者が明示的で、いわゆる「甲」と「乙」の間の業務委託契約が発生するようなものになります。右側に行けば行くほど、明示的な契約関係が存在しないなかで、行動変容を訴えたり、問題解決をはかっていく、というものになります。

 上下について補足しますと、上側は、受益者の要望や課題が先にあって、プロジェクト活動を通して、それを叶えるものです。下側は、製品や技術、メソッドなどの手段やコンテンツが先にあって、それを受益者に対して提供していく、というものです。

類型別の、プロジェクト進行の勝負どころの違いとは?

 「人間」とひとくちにいっても、色んな性格を持った、多様な人間がいるのと同じで、「プロジェクト」とひとくちにいってもやはり実に様々な性格を持った、多様なプロジェクトが存在します。

 実は、いわゆる「ウォーターフォール」と呼ばれる方法論は、これらの類型でいうと、制作プロジェクトの、特に「メソッド導入」型には、ぴったりしていますが、右側に行けば行くほど、適用になりにくくなります。一方、いわゆる「アジャイル」と呼ばれる方法論は、事業開発の、特に「需要開発」型にはぴったりしていますが、これもやはり、類型が異なったものには、適用になりにくいのです。

 つまり、世の中に数多く提唱されているプロジェクト進行方法論とは、その取り組みの性格とのマッチングが必要だ、ということです。

 では、その取り組みの性格とは、どういうものなのでしょうか。表形式で解説しますと、以下の通りとなります。

大分類小分類推進のために、プロジェクトの推進者や責任者が大事にすべきこと
委託受託要望実現●受益者の表層的なリクエストに振り回されない

●最初から思い込みで、実現手段を限定せず、問題や要望を、とにかく深く理解する
メソッド導入●あらかじめ、必要な資源やプロセス、期間や管理帳票等の計画を詳細に描く

●関係者の責任範囲や業務分掌を明らかにし、スコープが乱れないようにする
製品開発マーケット・イン●いわゆるMBA経営学的な、マーケティング戦略の王道をキチンと立てる

●最上流におけるコンセプト設計を、とことんまでこだわる
プロダクト・アウト●製造側の関係各位がスムーズに連携できるよう「すり合わせ」を大切にする

●ユーザー側の声が適切に製品に反映されるような仕組みやプロセスを導入する
事業開発需要開発●推進者や責任者自身が、受益者の声の、できる限り近くに立つ

●そのうえで、受益者の期待や想像を超える解決策を考え抜く
発明主導●シーズの持つポテンシャルや未来の価値を、当事者自身がとにかく信じる

●特定の市場やターゲットを想定して動きつつも、こだわり過ぎず、試行を増やす
変革外圧●外部環境に見たくない要素があったとしても、現実から目を背けず、向き合う

●本当に起きていることの実態を理解するために、現場に飛び込み、一次情報を得る
内発●向き合うべき矛盾に妥協せず、短期的な変化に惑わされない骨太な構想をする

●遠大な計画を見据えつつも、焦らず、伏線を張り巡らせる

「方法論」と「状況」の適切な組み合わせが、プロジェクトを前に進める

プロジェクト活動に慣れていない人は、つい、

と、考えてしまいがちですが、それでは、理屈としては、片手落ちなのです。

そして、あまり深く考えずに
「とりあえず、プロマネの勉強をすればよいのだろう」
「とりあえず、プロマネといえば、ITプロマネが王道なのだろう」
といった具合に、本来は適用にならない手法論を学んでしまい、かえって逆効果になってしまっていることが、とても多いのです。

本当は、以下の順番で、考えてあげなければなりません。

 そのプロジェクトの性格を見極めたうえで、そこに適した資質やスキルを持つ人材を配置することができれば、鬼に金棒です。

まとめと、おすすめ記事のご紹介

 さて、以上、プロジェクトワークの基本的なイメージと世界観について、ご紹介しました。昨今「プロマネ」という言葉が広く普及し、学びたい、という人も増えています。
 一方、いろんな指南書にあたってみたが「ITプロジェクト」「大規模開発」「ウォーターフォール」「アジャイル」など、特定の領域やトピックに特化したものが多く、自分の求めるものとは違った、という人も、とても多いのが、実情です。

 プロジェクトとは、その場その場に固有のものです。どんなプロジェクトにも、必ず個性があります。関わる人によっても変わりますし、扱う題材や、用いる技術や規模によっても、変わります。ゆえに、実は、そもそもプロジェクトの進め方を、一般論として語ることは、原理的にいって、そもそも不可能な話だったりします。

 ゆえに、この連載「Project Pathfinders」では、ありとあらゆる角度から、プロジェクトを、語っています。ぜひ、他の記事も、ご覧になっていただけると幸いです。

プロジェクトワークの、基本的な世界観

 例えば、今回の8つの分類に対して、もう少し詳しく進め方を知りたい、という方には、以下の記事がお勧めです。もう少し具体的な案件のイメージのもと、どんな段取りやプロセスでやるとよいか、ということや、参考書籍も、いくつかご紹介しています。

受託/商品開発/事業開発/変革など、プロジェクトの進め方と勘どころをタイプ別に解説!

 上記に加えて、プロジェクトって、そもそも、なんなんだ!?という根本的な疑問を徹底的に解消するために、お勧めしたいのはこちらです。

「取引」(商談・契約・納品・検収)の一連の流れを「モノ」と「プロセス」の二元的解釈によって読み解く

要望/要求/要件/仕様/設計の違いについて解説!【テンプレートあり】

 「要件」や「仕様」「設計」など、プロジェクトワークでは、いろんな言葉、概念を扱いますが、意外と「なんとなく」で「それっぽい」言葉遣いをしている、ということも、多いものです。ひとつひとつの言葉を丁寧に味わっていくと、その本来の意味や目的が見えてきます。

プロジェクトマネジメントの方法論

 そもそも論というよりは、もう少し具体的かつ実践的に、プロジェクトマネジメントの技法論を知りたい、という方向けの記事もございます。
 プロマネ、というと、昨今ではどうしてもITのイメージが強いところがあるのですが、できる限り、ITに限定しない形で、考え方をご紹介しています。

ITじゃないプロジェクトも!WBSの書き方再入門【テンプレートあり】

タスクの無間地獄に落ちないための、課題管理のコツ【テンプレートあり】

 そうはいってもITに関する素養は求められる、という現実もります。特に、SaaS全盛の世の中で、押さえておくとよいと思われる内容を、以下の記事で解説しています。

ITサービスの導入成功に必要な「プレ・キックオフ・コミュニケーション」のご紹介

SaaSを活かすか殺すかは、情報システム企画構想の質が決める【テンプレートあり】

究極の手戻り対策:作業後の「やっぱ、ここ、こうして」問題はどうするとよいか

 難しい話や細かい話は飛ばして、とにかく簡単に、シンプルに、とりあえず、これをやるといいよ、という結論だけを知りたい方には「プ譜」をお勧めしたく思います。
 プ譜とはなにか。プロジェクトを進めるための、楽譜のようなものと、思ってください。プロジェクトを「計画」として堅く考えるのではなく、もっと純粋に「誰がどう動き、どんな状態を目指すか」という、もっと直感的で柔らかな発想をサポートするためのツールです。

プ譜のテンプレートと、書き方のワンポイントアドバイス!

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いま、なぜ、プロジェクトの力が求められるのか、という根本的な話

 筆者は、今後の社会や経済が健全に発展していくためには、あらゆるビジネス素養のなかで、プロジェクトを前に進める力がその根本に位置づけられると考えています。それは、狭い意味での「プロマネ・スキル」を身に着けよう、という話ではありません。
 この、極度に情報化、複雑化、グローバル化した混迷の社会を生き抜くための、根本的な生きる力とは「プロジェクト状況に対して、自分なりの答えを出す力。自利のみでなく利他・利他のみならず自利、の適切な関係性を作るために、真っ当に思考することをあきらめない力」です。

 そうした問題に答えを出すには、企業社会の現実論だけでなく、古典や歴史、あるいはエンターテインメントの世界や趣味娯楽など、幅広い基礎教養が避けて通れません。柔らかい話も、固い話も、ハードな話も、ソフトな話もあります。

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この記事の著者

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家
後藤洋平

1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。

ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。