PM/PL人材の評価・育成の方法を徹底解説【テンプレートあり】

この記事について

着目する問題:
なぜ、PM/PL人材の評価・育成が困難なのか

 AI時代の花盛りを迎えた昨今。「作業」的な仕事に、人の手が必要とされなくなっていくことは、時代の必然であるように思われます。同時に、作業の方向性を示したり、進捗やクオリティコントロールをする、といった役割においては、いよいよますます、人間の力が必要とされることも、間違いなさそうです。今後のプロジェクト型業務において、立場としてPM/PLの役割を担える人材が、今後ますます不可欠なのは間違いない。

 そんな昨今において、あらゆるプロジェクト型組織の経営陣が頭を抱えている悩みは、

 という、いかんともしがたい現実です。

 プロジェクトワークの本質を一言であらわすならば、それは「ひとつひとつ、どこかが少し、違う」ということです。それゆえに「このスキルさえあれば、必ずできる」「こういう行動さえやれば、かならずうまくいく」というものが、うまく整理できない、というところに、最大の特徴があります。
 外部環境のおかげでうまくいくこともあれば、その逆もあります。メンバーの助けがあってうまくいくこともあれば、その逆もあります。そのプロジェクトが、どんな要素や行動のおかげでうまくいったか(あるいは、いかなかったか)、ということは、当事者自身にも、周囲の評価者にも、よくわからない、という問題があります。

 こうした各種の問題により、PM/PL人材の評価や育成は、誰にも解明困難なブラックボックスになってしまっています。

 PM人材の評価・育成が困難だからといって、おろそかにしてはいけません。これをおろそかにした結果、起きがちなのが、以下に図示するような組織状況です。このような状態になると、プロジェクト組織のトップが意思決定のボトルネックになってしまい、リーダー層やメンバー層が「言われたことしかやらない」「言われたことも、満足にやれない」ということになってしまいます。それは大変に危険な兆候です。

評価・育成の、はじめの一歩は「状況の把握」から

 PM育成にあたって、まず最初に整理しなければならないのは「現状の把握」です。その着眼点は「適切なプロジェクトマネジメント行動が取れていない原因と背景は、どこにあるか」ということです。PMスキルが発揮できていない、という現象や状況そのものは、あまり多様性はありません。いわゆる、ホウレンソウや問題解決の質が低く、介在価値が発揮できていない、ということがほとんどすべてです。

 しかし、その原因や背景は、本人のスキルや資質だけでなく、業務状況や組織的な背景など、様々な要因が関係しています。
 PM育成を考えるにあたっては、まずは「自社にとっての優先的な問題は、どれか」ということを、適切に把握しなければなりません。

 プロジェクト業務の実情は、当事者以外の第三者にはそもそも理解することすら、難しい、というところがあります。ゆえに、プロジェクトマネジメント業務が適切に実施できているかどうかを、自己評価に任せることは、大変に危険です。

PM能力評価の観点と尺度を、一挙解説!

 以上のような背景的な問題を考慮したうえで、個別の人材の評価をするわけですが、基本的な観点には3つのポイントがあります。

①ドキュメントから洞察する、思考の評価

 当事者のパフォーマンスは、案件や関係者との相性や状況に依存するため、ヒアリングや結果からでは、客観的な洞察は困難です。
PMスキルを評価するためには、実は、その初期構想や計画にあたっての資料や、進行途中のドキュメントを確認するのが、最も有効です。
 評価の尺度は、以下の10個に着目します。

・資料構成取り組みの趣旨や目的、規模や題材を踏まえた、適切な構成となっているか
・可読性テキストや図、グラフ、画像などの読みやすさ
・指示性個々人への役割やアクションに関する指示、メッセージの明確さ
・意思疎通コミュニケーションルールの明確さ
・組織化役割や体制、ロール定義の有無、明確さ
・リスクの考慮技術的観点における懸念事項やノックアウトファクターの観点
・企画構想テーマやコンセプトが適切に検討され、必然性や有効性のあるものになっているか
・QCDバランスQCD(品質・コスト・納期)の全体的なバランスは検討されているか
・軌道修正イレギュラーへの検知及び対処への考慮がされているか 変更管理やプランBへの考慮
・意見具申ネガティブな話があった場合に、それを適切に表現できているか

②実績から洞察する、基礎的なPMスキルの評価

 基礎的なPMスキルを有しているかどうかは、以下の5つの領域について把握することで明らかになります。
 これらは、過去の案件における実績に基づき、評価することができます。

プロジェクトの
前提や外部環境に対する管理
・ロードマップ表現(フェージング計画、マイルストン定義等)
・ステークホルダ管理(特定、把握、対処)
・リスク管理(シナリオプランニング、RBS、SWOT、PEST等)
プロジェクトの
内部組織・環境に対する管理
・契約管理(契約書、合意形成、各種証跡管理)
・計画統合管理(プロジェクト憲章、インセプションデッキ等)
・スコープ管理(責任分担表、RACIチャート等)
計画を順守し、作業を
実行、継続させるための管理
・成果物管理(WBS、バックログ、システム構成図等)
・品質管理(QFD、仕様書、テスト計画、スプリントレビュー)
・進捗管理(ガントチャート、PERT、スプリント計画、カンバン等)
計画逸脱の防止や検知、
対処のための管理
・見積/コスト管理(アーンド・バリュー、ベロシティ等)
・変更管理(変更手順定義、変更台帳管理)
・信頼関係管理(障害/不具合報告書、始末書等)
コミュニケーション全般の管理・定例MTGの主催進行、議事録管理
・連絡体制及びルールの定義
・課題及び ToDoの管理

③前提となるスキルや知識、行動の評価

 適切なプロジェクトマネジメントが実行できるようになるための、前提となるスキルや知識、行動には、6つの群があります。

A群
その業務におけるドメイン知識
その事業を行う上での基礎的な技術知識や背景となる理論、あるいは業界知識、顧客理解、業務プロセスなど、プロジェクトを行うドメインについての個別知識は、すべての前提となります。
B群
狭義のプロジェクトマネジメントに関するスキルや知識
PMBOKに代表される知識体系を知っておくことも、もちろん有効です。ですが、教科書を読み、資格を取ればそれでよい、というわけではなく、実践的なスキルや知識も求められます。
C群
利害関係・社内手続き、コミュニケーション
こちらは、そのプロジェクト組織の内部的なコミュニケーションやマネジメントというよりは、いわゆる企業組織の内部的なステークホルダー特定や一般的なコミュニケーションスキルを指しています。
D群
ビジネススキル/マネジメント系知識
ロジカルシンキングや問題解決、マーケティングや交渉、ファイナンス、法務などの、いわゆるMBA的な知識・スキル群は、PMにとって基礎的なものとして欠かせません。エンジニア出身のPMの場合、こちらに弱点がある場合があります。
E群
日常、または非日常における所作
最終的に、幅広い利害関係者に対して適切な信頼関係を築き、有効なコミュニケーションや行動、意思決定を促していけるかどうかは、最終的にはPM/PLの「所作」が求められます。
F群
基礎教養、リベラルアーツ
一見、直接的には実務に関わってこないようでも、企画構想の質を高め、より有効な危険予知を助け、エグゼクティブからの深い信頼を得るための、真のバックボーンは基礎教養に宿ります。

育成の、目指したいアプローチと避けたいアプローチ

 PM育成にあたって、最も望ましいのは「当事者から喜ばれる」ということです。そのためには、実務のうえで困っていること、本当に必要としているものを、まずは適切に理解し、整理すること。そして、業務負荷やスケジュールも考慮したうえで、受け取りやすい形で、提供する、ということです。

 上の図は、当たり前の話に見えるでしょうか?この絵だけを見ると、普通の話に見えるかもしれません。しかし、PM育成の多くの現場において行われているのは、下図でお見せするような流れだったりします。

 最大のポイントは、実務のなかで、学ぶことの必要性に、自ら気づく、ということです。そのために、まずは「案件や課題」、次に「学びのコンテンツ」との出会いを演出することが、PM能力開発における、最大のコツです。

まとめ

 以上、PM人材の評価と育成の全体像について、解説させていただきました。
 改めて整理しますと、PM人材の評価・育成は「考える順番」がすべて、ということになります。

 「考える順番」を間違えなければ、体系的なPM育成は可能です。

 ご参考になる部分が、ひとつでも、ふたつでもあれば、大変嬉しく存じます。

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この記事の著者

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家
後藤洋平

1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。

ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。

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