ストレスチェックを形だけで終わらせず、本来の趣旨を実現するために

この記事について

ストレスチェックとは?

ストレスチェックとは、労働者が自分のストレス状態を把握するために行う心理的な検査・評価のことです。
質問票への回答を通じて、仕事上のストレス要因、心身のストレス反応、職場の支援状況などを数値化し、メンタルヘルス不調の早期発見・予防に活用します。

発祥と普及の流れ

日本では、2000年代以降に職場のメンタルヘルス問題が深刻化し、労働環境の整備が急務となりました。
背景には、過労死・過労自殺の増加、うつ病などの精神疾患による休職・離職の急増といった社会問題があります。

  • 2006年
    厚生労働省が「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を策定。
    職場のメンタルヘルス対策が本格的に議論され始める。
  • 2014年
    労働安全衛生法が改正され、ストレスチェック制度の導入が決定。
  • 2015年12月ストレスチェック制度が義務化
    常時50人以上の労働者を使用する事業場に対し、年1回の実施が法律で義務付けられる。
    その後、中小企業への普及や制度の見直し・改善が継続的に行われている。

期待できるとされている主な効果

労働者個人にとって
・自分のストレス状態を客観的に把握できる
・高ストレスと判定された場合、医師による面接指導を受けられる
・不調の気づきを得ることで、早期に対処できる

企業・組織にとって
・職場環境の問題点を集団分析データで把握し、組織改善に活かせる
・メンタルヘルス不調者の発生を未然に防ぎ、離職率の低下や生産性向上につながる
・法令を遵守することでリスク管理・コンプライアンス強化になる

個人の成長支援
・過労死・過労自殺の予防に寄与
・医療費の抑制や、持続可能な働き方の推進に貢献

日本企業の導入状況

厚生労働省のデータによると、50人以上の事業場のストレスチェック実施率は84.7%に達している一方、50人未満の事業場では32.3%にとどまっています。 全体(規模計)では2022年度時点で実施率40.0%という数字も示されており、小規模事業場がこの平均を大きく引き下げている構図です。

「職場のメンタルヘルス対策の推進」を含む改正労働安全衛生法が2025年5月14日に公布され、従業員50人未満の事業場についてストレスチェック実施を努力義務とする附則が撤廃され、全事業場への義務化が決定しました。 施行日は公布後「3年以内」に政令で定める日とされており、最長で2028年5月までに義務化される見込みです。
2021年時点で、従業員数50人未満の事業所は全国に364万か所、従業員は約2,893万人に上り、これらが新たに対象となるため、制度の適用範囲は大幅に拡大します。

課題は?

令和5年の厚生労働省の調査では、メンタルヘルス対策に取り組む事業所は63.8%に上る一方、直近1年間でメンタルヘルス不調による1か月以上の休業・退職者が出た事業所は13.5%と高い水準にあります。また、令和5年度の精神障害による労災請求件数は3,575件で、前年度比892件増加しています。

なぜ、いま、ストレスチェック?

 昨今、多くの企業の業務が「プロジェクト型」へと移行しています。

 多くの人が同じようにルーチンワークをこなす場と違って、プロジェクト型の業務では、従業員個々人の悩みを補足しづらく、気づいたときには重症化していることも珍しくありません。
 昨今、あらゆる規模・業種の組織、あらゆる人材階層において業務不調 → メンタル不調 → 休職、離職 → 人材層が形成されない → 採用コストの高止まり といった負のスパイラルが常態化しており、いま改めて、ストレスをチェックするだけにとどまらず、そもそもストレスをどう防止するか、より包括的な対応としての望ましいあり方に関心が高まっています。

ストレスチェックの代表的な手法と実施の流れ

職業性ストレス簡易調査票(BJSQ)
日本で最も広く使われる標準的な調査票。厚生労働省が推奨しており、57項目版と簡易な23項目版がある。
以下の3領域を評価する。

領域内容
ストレスの原因仕事の量・質・コントロール感など
ストレス反応身体的・心理的・行動的な反応
緩衝要因上司・同僚・家族などのサポート

K6(Kessler Psychological Distress Scale)
うつ・不安の程度を6項目で簡易評価。国際的に広く使用。

PHQ-9
うつ病のスクリーニングに特化した9項目の国際標準ツール。

MBI(Maslach Burnout Inventory)
バーンアウト(燃え尽き症候群)の測定に特化。

GHQ(General Health Questionnaire)
精神的健康の全般的な状態を評価。12項目版・28項目版などがある。

実施の流れ

① 事前準備
 └ 実施方針の策定・担当者(実施者)の選定
 └ 産業医・保健師などが「実施者」となる
 └ 調査票の選定、実施時期・方法の決定

② 労働者への周知・案内
 └ 目的・内容・個人情報の取扱いを事前に説明
 └ 任意参加であることを明示(受検の強制は不可)

③ ストレスチェックの実施
 └ 紙・Web・外部委託サービスなどで実施
 └ 結果は「実施者(医師・保健師等)」が直接管理

④ 結果の通知
 └ 実施者 → 労働者本人へ直接通知
 └ 事業者(会社)には本人同意なく結果は渡らない ※重要

⑤ 高ストレス者への対応
 └ 希望者は産業医等による「面接指導」を申し出られる
 └ 面接後、必要に応じて就業上の措置(業務軽減など)を検討

⑥ 集団分析(努力義務)
 └ 部署・チーム単位で集計・分析
 └ 職場環境改善の施策立案に活用
 └ ※10名未満の集団は個人特定防止のため原則非開示

⑦ 事業者による記録・報告
 └ 実施結果(個人情報なし)を労働基準監督署へ報告
 └ 記録は5年間保存義務

代表的な提供ベンダ

サービスは大きく「ストレスチェックサービス特化型」「オンプレミス型」「健診管理システム付帯型」「人事労務SaaS付帯型」の4種類に分類でき、料金・多言語対応・実施後フォローの充実度が各社の差別化ポイントとなっています。

① 専業・特化型(クラウドSaaS)

サービス名概要
ソシキスイッチ ストレスチェックPRO
(情報基盤開発)
2025年10月時点で7,552社の導入実績を持ち、厚生労働省のマニュアルに完全準拠。
紙版・Web版の両方に対応しており、労働基準監督署への報告も行える。
東大発ヘルステック企業が提供し、15言語の多言語対応と産業医紹介などのオプションも充実している。
ドクタートラスト産業医・保健師によるフォロー体制が充実した専門機関。
2025年9月から50人未満の事業場向けサービス「ストレスチェック50」の提供も開始。
小規模事業場でも導入しやすいシンプルな仕組みを提供する。
保健同人フロンティアEAPとストレスチェックを組み合わせた統合型サービス。
健康管理データの一元管理に強みを持つ。

② 健康管理システム統合型

サービス名概要
Growbase
(ウェルネス・コミュニケーションズ)
企業の健康管理業務の効率化と健康経営を促進するクラウド型健康管理システム。
健康データの一元管理により従来の業務量を約80%削減できるとされる。
STRESCOPE精神科産業医が開発・監修した医学的知見と高度なデータ分析技術で
企業の課題を可視化・分析できるサービス。

③ 人事労務SaaSとの連携型

サービス名概要
freee人事労務・ジョブカンシリーズf人事・労務データを管理している企業向けに導入できるクラウド型健康管理サービスや
労務・勤怠・人事情報の一体管理を実現できるプラットフォームも提供されている。
SmartHRHR管理システムとしての地位を活かし、ストレスチェック機能を
人事データと連携して運用できるサービスを展開。

④ 大手人材・総合系

サービス名概要
パーソルビジネスプロセスデザイン実施準備・代行にとどまらず、分析結果の読み解きや高ストレス者への支援まで
含めたサービスを提供しており、現状の課題整理から相談できる体制を持つ
大塚商会メンタルヘルス研修・疲労度チェック等を契約期間中何度でも利用可能なサービスを提供。
集団分析の結果を活用したコンサルタントによる組織支援も行う。

⑤ 無料・低コストの選択肢

厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム
費用を最優先にするのであれば、厚生労働省が「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」を無料で公開しており、自社スタッフで運用することを前提とした選択肢として活用できる。ただし、事務対応・産業医連携・個人情報管理などはすべて自社で行う必要がある。

ベンダ選定における主要検討項目

観点確認内容
対応規模従業員数・事業場数への柔軟対応
受検方式Web・紙・スマホ対応の有無
多言語対応外国籍従業員への対応言語数
フォロー体制産業医面談・カウンセリング連携の有無
集団分析の質部署別・経年比較・改善提案の精度
セキュリティプライバシーマーク取得の有無
費用体系人数単価・最低実施人数・オプション費用

導入しても「意味がない」となる、ありがちなケースは?

1. 実施して終わりの、やりっぱなし問題

最も多いパターン。チェックを実施して結果を返すだけで、その後何も変わらない状態です。

従業員側は「毎年受けているけど何も変わらない」と感じ、翌年から回答が形骸化していきます。ストレスチェックは「実施すること」が目的ではなく、結果をもとに職場環境を改善するサイクルを回すことが本来の目的です。集団分析の結果を部署にフィードバックし、具体的な改善施策につなげなければ、制度そのものへの信頼が失われます。

2. 高ストレス者が面接指導を申し出ない構造的問題

高ストレスと判定されても、面接指導を申し出る従業員は実際には非常に少ないのが実態です。背景には以下のような心理的障壁があります。

  • 「面接を申し出ると上司や人事に知られるかもしれない」という不安
  • 「申し出ることで評価が下がったり、異動の対象になるのでは」という懸念
  • 「自分はまだ大丈夫」という過小評価

制度上は個人情報保護が徹底されているにもかかわらず、従業員にその安心感が十分に伝わっていないと、最も支援が必要な人が制度を使えない逆説的な状況が生まれます。

3. 正直に答えると不利になるという空気

職場の心理的安全性が低い場合、従業員は実態よりも「問題ない」方向に回答を歪める傾向があります。管理職がチームの結果を気にして「良い点数を出すように」と無言のプレッシャーをかけるケースも報告されています。こうなるとデータそのものが実態を反映しなくなり、集団分析も職場改善も機能しません。

4. 集団分析を見るだけ

集団分析のレポートを受け取っても、読み解き方がわからない、あるいは忙しさを理由に棚上げにしてしまうケースです。数値を眺めるだけで「今年もこんな感じか」と終わり、次の打ち手に落とし込まれません。分析結果を職場にフィードバックして当事者意識を持たせ、改善策の立案と実行までつなげる人材・仕組みがないと、データは死蔵されます。

5. 管理職・経営層が関与しない

ストレスチェック制度が「人事部門の業務」として孤立している場合、組織全体に改善の動きが生まれません。職場環境の改善には現場の管理職の行動変容が不可欠ですが、管理職がストレスチェックの意義を理解していなかったり、部下の結果に無関心だったりすると、制度は形だけのものになります。経営層が健康経営の一環として本気で取り組む姿勢を示さない限り、現場は動きません。

6. 受検率が低く、データが偏る

受検率が低いと、集団分析の結果が実態を反映しません。特にストレスが高い人ほど「どうせ意味がない」と感じて受検を避ける傾向があるため、高ストレス者が抜け落ちたデータで分析しても精度は低くなります。受検を促す周知・リマインドが不十分な場合や、実施時期が繁忙期と重なっている場合も受検率の低下を招きます。

7. 外部委託に丸投げし、社内に知見が蓄積しない

外部ベンダーに任せきりにした結果、毎年レポートは届くが社内の誰も内容を理解していない、という状態です。ベンダーが変わるたびにデータの連続性が失われ、経年比較もできなくなります。制度を継続的に改善するためには、外部委託を活用しながらも、社内に産業保健の知識と文化を育てていくことが必要です。

導入したストレスチェックを無意味にしないために

心身の健康は、働く人間にとって文字通り死活問題で、せっかく国が制度として主導し、仕組みを普及させようとしているのに、なかなかそれが、現場で効果を実感されにくいのは、シンプルに、もったいないなと感じます。特に、制度先行だと、形を整えることそのものが目的化してしまうのが、難点です。

こうしたテーマで真に実効性のある取り組みを定着させていくのは本当に難しいことなので、現状に不満を述べるだけではなくて、より良い一歩をどうにか踏み出すことができたらいいなと思っています。

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    後藤洋平,ポートレート

    プロジェクト進行支援家
    後藤洋平

    1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
    著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。

    コンサルティング実績

    ●ドローンを用いた施設見守りシステムの実証実験
    ●ブロックチェーンを使った新規事業の実証実験
    ●完成車メーカーのデジタル価値創造プロセス策定
    ●デジタル広告大手企業の教育体系再構築
    ●商店街活性化のための人流測定に関する調査
    ●OEM精密機械メーカーへの新規事業テーマ探索支援
    ●ゲームプラットフォームPMO責任者サクセッション支援
    ●多機能サイト制作の商談、受注、納品プロセス標準化
    ●SaaS導入コンサルティング部門の立て直し支援

    講座・研修等の実績

    ●SIer向け プロジェクトリーダー育成プログラム
    ●大手ビジネススクールにおける公募型講座
    ●企業内大学における定期開催型の講座
    ●大企業 企画職むけプロジェクトマネジメント研修
    (金融、ゼネコン、エネルギー、物流、教育、通信 等)
    ●中小企業経営者向け デジタル変革に向けての伴走型講座
    ●大学内講義へのゲスト登壇
    (東京大学、近畿大学、名城大学)
    ●開発ディレクター/SE向けの長期伴走グループコーチング

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    著書

    ・予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)
    ・見通し不安なプロジェクトの切り拓き方(宣伝会議)
    ・紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本(翔泳社)
    ・“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで(翔泳社)
    ・決まるプレゼン・会議の組み立て 意思決定のための「場」の演出論(ビジネス教育出版社)