なぜ、PM研修に効果がでないのか。PM能力開発の知られざる真実とは?

この記事について

着目する問題:
急ぎたいPM能力開発。しかし研修は、役に立たない。

 IT・デジタル業界に限らず、あらゆる企業において、プロジェクト型の業務が増えています。

 「センミツ(1000回試行して、うまくいくのは3回)」なんて言い方もありますが、プロジェクトワークというものは、成功確率がとても低く、どなたも本当に苦労されていることと思います。
 そこで近年、「プロジェクトマネジメントスキルの向上」への注目度が、業界や企業規模の大小を問わず、急上昇しています。

 一般的には、プロジェクトマネジメント教育は、「階層別研修」か「手揚げ型」のいずれかで、提供されています。内容としては「計画立案の方法」「コストマネジメント」「リスクマネジメント」といったものが、代表的です。

 「とにかくプロマネ能力が必要なんだから、プロマネ研修を受けさせればいい」
 「有名な研修ベンダや講師であれば、安心」
 と考えて、そうしたものを取り入れたことがある、ということも、多いかと思います。

 研修を打ってみたが、なんだか結果が出ない・・・ということを、お感じになった方も、多いのではないでしょうか。

 結論から申しますと、「研修でPM能力を向上させるのは、そもそも不可能」です。

 なぜならば、研修では、プロジェクトワークの本質を理解することが、できないからです。

 プロジェクトワークの本質を一言であらわすならば、それは「ひとつひとつ、どこかが少し、違う」ということです。

 それゆえに「このスキルさえあれば、必ずできる」「こういうふうに行動すれば、かならずうまくいく」というものが、うまく整理できない、というところに、最大の特徴があります。
 外部環境のおかげでうまくいくこともあれば、その逆もあります。メンバーの助けがあってうまくいくこともあれば、その逆もあります。そのプロジェクトが、どんな要素や行動のおかげでうまくいったか(あるいは、いかなかったか)、ということは、当事者自身にも、周囲の評価者にも、よくわからない、という問題があります。

 「プロジェクトとは、こういうふうに、回せば良い」というふうに聞いて、いざその通りにやってみたら、そのテキストではカバーしきれない(あるいは本人が応用しきれない)状況にぶち当たる。それが、プロジェクトです。

 プロジェクトの世界では、もちろん一般論や原則論は確かにあります。しかし、直面する状況は、常に例外事象なのです。ゆえに、ある程度の標準化やマニュアル化はできたとしても、最後の最後、その標準やマニュアルを活かせるかどうかは、当事者自身しだい、ということになってしまいます。

PM・PL人材育成の現実論

 経験豊富なベテランの最大の特徴は「状況の把握が的確で、対処の引き出しが多い」ということです。

 真のプロジェクトワークのベテランは、例外事象が極めて多い状況のなかで

「こういうときはああする」
「ああいうときはこうする」

「こういえばああいう」
「ああ言われたらこうする」

「こういうときは、これを優先」
「ああいうときは、それは後回し」

など、対処の引き出しを豊富に持っています。
「プロジェクトワークの本質理解」とは、そういうことです。

 それは「プロジェクトにおける因果関係の総体」が、その頭脳やマインド、身体感覚にインストールされている、ということです

 これは、いくらテキスト化しても、しきれるものではありません。

 プロジェクト進行能力を向上させるためには、「ああすれば、こうなった」「こういえば、ああなった」という経験を積み重ねることが、どうしても、避けられません。

 PM能力開発は、本来、果てしない時間がかかるものなのです。それが、PM・PL人材育成の、現実論です。

打ち手は、ある!

 では、どうするべきなのか?

 その答えは「いま、ここで、現場の誰が、どんな学びを必要としているのかを、理解する」ということです。

 「プロジェクトワークの総体」を理解しようと思ったら、果てしない時間がかかりますが「いま・ここ・目の前、この瞬間に必要なもの」を学ぶのであれば、さほど、時間はかかりません。

 つまり「どんなプロジェクトにだって対応できるスペシャルな人材」を育成するのは大変です。一方、「いま・ここで、どうしても成功させたい取り組みに、必要な人に、必要なことを、身につけてもらう」ということであれば、すぐにでも、可能なのです。

 企業におけるPM能力開発の失敗には、決まったパターンがあります。

 経営側、人事部門、現場側の三者間で、PM能力開発に関する目線があっておらず、まともな会話ができていない、という状況です。

 育成施策をコーディネートする人事側は、どうしても、現場で起きていることが、理解しづらいものです。
 一方の現場側は、主観的にはやるべきことができていると思っていても、客観視することが、難しいものです。

 そもそも「なぜ、PM能力が低いままに留まってしまっているのか」の、真の理由を、誰も把握せずに「とりあえずの打ち手」を考えてしまっているだけ、なんてことも、非常によくある話なのです。

 実は、それこそが、PM研修に意味が生じにくい、最大の理由なのです。

 では、どうするべきなのか?

 数多くの取り組みを経て、ゴトーラボが一番お勧めしたいのは、以下の順番です。

自社のPM能力の「レベル感」を把握し、議論の土台を作ろう

 経営目標と、現場の課題の両方を理解して、体系的な能力開発施策を展開するためには、経営、人事、現場の、三者間での協力が不可欠です。

 この橋渡しに失敗してしまったら、永遠に「なんとなくPM研修を打ってみる」「なんとなく結果が出ない」という状態を行ったり来たりしてしまうだけです。

 PM能力開発を成功させたければ、必ず、この三者の視野・視界を、橋渡しする必要があります。

 そのために最優先すべきことは「経営、人事、現場の三者が、目線をあわせて議論ができる、土台を作る」ということです。

 この3つの点について、PM・PL人材育成に関わるキーパーソン同士が話し合い、腹落ちをすることが、大切です。

まとめ

 今後のプロジェクト型業務において、立場としてPM/PLの役割を担える人材が、今後ますます不可欠なのは間違いない。

 だがしかし、育成には時間がかかる 適性の見極めも難しい。中途採用市場でも枯渇しており、選考やマッチングも困難。これが、現実です。
 現実を打破するためには、やはり、いまいる人員のなかで、少しでもPM業務に適性のある人材に対して、動機づけをし、必要な武器を提供し、能力を高めてもらうしか、ありません。

 ゴトーラボでは、PM能力開発の第一歩である、現状把握を、低コスト・低リスク・短期間で実施することが可能です。

 それは「プロジェクトの企画書や計画書、途中経過や報告資料など、ドキュメントだけを提示していただければ、あとは当事者ご本人へのヒアリング、インタビューなどをせずに、客観的な第三者レポートをご提供する」というサービスです。

 「ドキュメントだけで、ここまで深く、正確に状況を洞察できるとは思わなかった。びっくりした!」
 「今後の育成体系を検討するうえで、非常に参考になった」
など、喜びの声をいただいています。

 アセスメントレポートのサンプルを、以下のボタンからダウンロードいただけます。
 PM能力開発に活かせそうとお感じにいただけましたら、ぜひ、ご相談をいただけますと幸いです。

 お問い合わせ先:info@gotolab.co.jp 後藤 宛


この記事の著者

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家
後藤洋平

1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。

ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。

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