計画か、即興か! 変革プロジェクトの攻略定跡

この記事について

着目する問題:
変革プロジェクトはどうすれば成就するか

 気づけば、世の中は「変革」を求めています。
 例えば、デジタル・トランスフォーメーションとか、グリーン、トランスフォーメーションといった言葉が、日々、メディアを賑わせています。トランスフォーメーションとは、根本的に構造が変わっていく、変えていく、という意味です。

 思い返せば昔は「改革」が謳われていました。聖域なき構造改革、という言葉が一世風靡した時代も、ありました。同じ頃「IT革命」という言葉も、流行していました。それまでは、情報産業とかコンピュータといわれていたのが、インターネットの登場とともに「IT」という言葉に刷新されました。
 2025年現在、改革という言葉は、すこしどこか、色褪せてしまったような気がします。大企業の世界でも、昔だったら、風土改革と呼ばれていたものが、いまだと、カルチャー変革と呼ばれます。

 単なる言葉遊びではなく、おそらく、変化を必要とする内実や、その方向性そのものの変化が、このような言葉の変化をもたらしているように思えます。(そういえば、昔々、大企業のTVCMで「変わらなきゃも、変わらなきゃ」なんてキャッチコピーがありました。)

 改革にしろ変革にしろ、自分たちのあり方を変えていこう、変わっていこう、という取り組みもまた、まごうことなきプロジェクトです。
 そしてそれは、委託・受託プロジェクトとは、遥かに異なる世界です。

 かたや、委託・受託型プロジェクトとは、甲と乙のふたりがいて、商取引として成果物を目指す取り組み。そこには明確な契約関係というものがありました。
 翻って、変革プロジェクトに契約は必要ありません。社長と社員が変革契約を結ぶ、なんて、なんだか変です。

ある自治体での変革プロジェクトに関わった思い出

 変革プロジェクトというと思い出すのは、とある自治体の取り組みに協力した経験です。

 その概要は、県庁所在地の配下にある主要商店街並びに、周辺にあるいくつかの商店街の経済活性化を目的としたものでした。そのために、AIカメラを導入し、人流データを可視化することで経営に活かそうというのが趣旨でした。ついては補助金を活かしてハード、ソフトの両面から必要な情報システムインフラを整備したい、とのこと。
 筆者は、そのための具体的な実装案を検討するにあたっての、先行事例調査や技術的基礎調査、地元関係者からの要望の聞き取りを担当しました。

 約一年をかけて、調査やヒアリング、シミュレーションや中間報告などを挟み、最終的な報告書をお渡しする、という関わり方をしたのですが、そのなかで痛感したのは「人は、本当に、変革を望んでいるのだろうか」「話し合いで、変革は進むのだろうか」という疑問でした。

大企業での取り組み状況から考える変革のジレンマ

 仕事柄、企業の変革プロジェクトを手伝わせていただくこともあります。クライアントは、従業員規模として、万を数える大企業であったり、あるいは数十名規模のオーナー企業だったり、様々です。

 地方自治の世界よりは、企業のほうが、指揮命令系統が明確です。そして、原則的に、変革を望むのは必ず企業のトップです。

 いまのままの事業構造ではまずい、このままの意識でいては、今後の時代の荒波を越えていくことはできない。そのような危機感から、企業のトップは、自社の組織や構成員に対して、変わることを求めます。
 その結果として展開される状況はまさしく「紆余曲折」としかいいようのない混乱です。日々の定型業務のなかではしっかりと噛み合っている関係性が、変革を求めた瞬間、疑心暗鬼と相互不信に陥ります。

アカデミアから放たれた、看過できない提言

 自分たちが、変わるべきであるということについて、誰しも異論はない。しかし、どう変わっていくべきか、どのようにすれば、変わっていくことができるのかについては、意見が一致しない。

 これまで、そうした議論においては必ず「トップダウンか、ボトムアップか」という議論がされてきました。社会的には、多くの試行錯誤を経て、どちらでもないということが認識の基本となっているようで「ミドルアップダウン」という言葉が編み出されています。
 企業組織において、経営的な文脈を見据えつつ、実際に現場を動かしていくのはミドルマネジメント層の役割です。そのミドルマネジメントが主体的に変革行動を主導していくべきだ、という考え方です。

 理屈で考えるとたしかにそれは理想ですが、当のミドルマネジメントにとっては、リスクばかりが多く、得がないのが、悩みのタネです。また、実際のところ、ミドルマネジメントといっても実態は雇われの身であり、会社の行く末や従業員の未来というものをじぶんごととして危機感の源泉にできるかというと、微妙なところがあります。

 ここで一冊、おすすめしたい一冊があります。

参考図書

矛盾と創造 自らの問いを解くための方法論
小坂井 敏晶 著
祥伝社

 本書の掲げる問いは、なぜ、思想の変革(従来の社会規範の逸脱)が起きるのか、ということです。この問題に対して、自然科学におけるパラダイムシフトを範にとりながら、社会心理学における豊富な知見と実践知をもとに、挑んだ書です。
 特に、トップダウン的な思想変革理論を提唱したホランダーに対するモスコヴィッシの反論について述べた部分が白眉です。

まとめ

 フラットかつ冷静に、論理的に考えますと、変革を計画的に達成するという発想ほど、非合理的で、ナンセンスな発想はありません。
 社会や組織におけるあらゆる主体者には、自由意志があり、その内心に対して、他者が思想の変更を強制することは、できません。お金や権力の論理によって、表面的な行動を一時的に変えることはできるかもしれませんが、長続きはしません。

 変革を達成しようとするならば、関心を獲得することで、自発性を引き出すという以外に、アプローチはありません。

 音楽でいえば、ジャズのように、即興的な運動を重ねていく以外に、ありません。

 そのようなプロジェクトのあり方を、著者なりに表現したのが、下の図です。

 ご参考になるようでしたら、幸いです。


この記事の著者

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家
後藤洋平

1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。

ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。

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