プロジェクトの遅延やトラブルは、「キックオフ」の時点で、すでに始まっている

この記事について

着目する問題:
プロジェクトの失敗は、どうすれば避けられるのか。

 企業コーポレートサイトやプロモーションサイトの制作、あるいは業務用のシステム導入といったITサービスの開発、導入プロジェクトを、どこかしらのベンダに発注し、進めているなかで、たとえば、

といった不安を、お感じになることは、ないでしょうか。

 ITプロジェクトにおいては、悪い予感は、高い確率で的中します。

などなど・・・

情報システム導入における、典型的な「後の祭り」

 せっかく、費用と時間をかけて新たなITサービスを作るのに、そんな結果につながってしまった、ということでは、困ってしまいますよね。

 このコラムでは、失敗が起きる「リアルな事情」と、そんな現実論を踏まえた、失敗を避けるヒントを、解説します。

ITサービスの導入は、うまくいかなくて当たり前、ではない

 本稿執筆時点の2025年いま現在、ありとあらゆる業界や業務に対応したITサービスが販売されていて、どのベンダも、業務改善や効率化、成果創出支援の専門家として営業活動をしています。
 多くのベンダは、商談のうちは、絶対に失敗することのない、バラ色の未来を描いて見せてくれます。

 しかし、いざ導入を意思決定し、発注し、実際にプロジェクトが始まると、現実が、色あせていく。
 そんなことが、非常に多い昨今です。

 考えたら、とても不思議な話なのですが、 「まぁ、IT発注なんて、そんなものじゃないの」と、お思いの方もおられるかもしれません。

 しかしそれは、古いイメージかもしれません。優れたIT投資を成功させ、営業活動や生産、納品活動、あるいは業務管理などの効率性に大きなメリットを得ている企業も、数多くはないですが、実際にあります。
 安定経営や急成長経営を実現している企業は、ITサービス導入がうまくいっているケースが、意外と多いものです。

 反対に、コスト対効果の悪いIT導入をしてしまって、長期に渡って会社や事業にマイナスの影響を受けてしまっている企業もあります。質の低いITサービス導入は、数字に現れにくい、見えにくいところで、確実に体力を奪っていきます。

といった状況に直面しているとしたら、もしかしたら、ITサービス導入の失敗が、響いているせいかもしれません。

ITサービス導入が失敗する「リアルな事情」

有能なプロジェクトマネージャは、めったにいない

 結論から申しますと、IT制作企業やSIerと呼ばれる企業の「専門家としてのイメージ」と「担当者本人の実力」の二者のあいだには、しばしば、大きなギャップがあるのです。

 IT開発は、そもそもかなり、難しく、複雑なものです。「操作がらくらく!」「簡単に導入!」と、高らかに謳うIT製品の広告はよく見かけますが、あんまり素直に、鵜呑みにしては、いけません。

 その製品の使用画面が、確かに直感的に操作できるものになっていたとしても、結局のところ、その「直感的でラクラクな画面を通じて、業務上、成果を出す」ということをしようとすると、実に多くの壁を、乗り越える必要があります。

本当に便利なITサービスを実装したいとなると、やらなければならないことは、たくさんあります。

 そういうふうに、たくさんの複雑で難しい問題を、適切にさばき、スケジュールを立て、プロジェクトを進めていくのが「プロジェクトマネージャ」です。

 どんなITベンダにも、必ず、最低ひとりは、有能なプロジェクトマネージャがいます。著者の統計的な体感としては、どの企業にも、全社員数に対して2%の比率で、見事に導入プロジェクトを仕切り、成功に導ける人がいます。

 問題は、その有能なプロジェクトマネージャが、全部の案件を対応することが、できないことです。名刺に「プロジェクトマネージャ」と肩書きされていても、もしかしたらその人は、適切な教育を受けていなかったり、経験年数が浅かったりして、成功どころか、失敗に導いてしまうかもしれません。

 どのベンダも、その状況を、良いことだとは思っていませんが、プロジェクト進行能力を育成するのは、時間もコストも莫大にかかってしまうので、非常に苦慮しながら、こうした状況と向き合っています。

プロジェクト成功を妨げる要因や問題が、着手したあとに明らかになる

 どんなITベンダも、ある程度ちゃんとした企業であれば、説明資料や計画資料のひな型は、きれいなものが整備されています。発注時は「説明資料がきれいで見やすいから、安心だろう」と思う人も、多いかと思います。
 しかし、それはお金をかけて作ったデザインテンプレートのおかげです。いざ実際に、業務を担当する人の能力水準が、必要なレベルに達していなければ、見かけだおしでしかありません。

 担当してくれるプロジェクトマネージャの能力水準が、残念ながら必要なレベルに達していない場合の最大の問題は「初期構想や初期計画が、甘い」ということです。

 ITプロジェクトとは、本来、想定外の問題との、戦いの連続です。しかし、未熟なプロジェクトマネージャは「うまくいってほしい」という願望だけで、考え、動きます。あらかじめ検討すべき急所や難所の想定をしていなかったり、想定していたとしてもそれが的外れだったりします。
 成果物が期待通りにならない原因が、プロジェクト計画を立てているうちに見つかれば、これほどありがたい話はないのですが、どうしても、いざやってみて、初めてそれが見えてくる、というところがあります。

 当初描いたバラ色な未来が、いつのまにか、地獄のような現実に変わってしまう原因とは、そういうものです。

ダメなプロジェクトの典型例

 ダメなプロジェクト構想とは、どういうものか。シンプルな一枚絵でお示ししますと、以下のようなものです。

 ITサービスは、多くの場合、「この問題を解消したい」という背景と「この解決手段が、良さそうだ」という期待感から、始まります。

 その初期設定は、誤っていることが、意外と多いのです。

 そんな状況に至ってしまったとしたら、その原因の芽は、実は「キックオフをしたその瞬間」に、誰も気づかぬところで、発生しています。

傷が深くなる前に、早めに対処したいこと

 そもそも、どんな有能なプロジェクトマネージャが手掛けたとしても、その取り組みに未知の要素が大きく、一定以上の複雑さがある場合は、そんなに綺麗には、運びません。ですから「これはまずいぞ・・・」という状況が生まれることそのものは、実は、大きな問題ではありません。

 では、有能なプロジェクトマネージャと、そうでないプロジェクトマネージャの違いはなにか。
 大きく分けて、2つあります。

 ひとつは、初期構想や計画時点での「思考の精度の高さです。

 もうひとつは、現実に「これはまずいぞ・・・」という状況になったときの「対応の素早さと、的確さ」です。

 そんなふうに感じた際は、ぜひ、問題解決対応の素早さ、的確さが満たされているかどうかに、着目してください。

 どんなに不満があったとしても、一度一緒に始めてしまった以上は、そのベンダや担当者とは、一蓮托生です。「やっぱだめ、チェンジ」を繰り返しても、幸せになれることは、あんまり、ありません。

 「お金を払っているんだから、完璧にやってくれて当たり前」と、言いたくなるところを、ぐっとこらえていただけると幸いです。

 こういった部分を、関係者一同で、一緒になってお考えいただくと、活路が見えてくることも、多いです。ぜひ、お勧めさせていただきます。

【無料】「PMドキュメント診断」クイックチェックのご案内

 ゴトーラボでは、プロジェクト構想やプロジェクトマネジメント当事者の「思考の質」の、第三者評価サービスを提供しています。
 「キックオフ資料」「企画書」「計画書」のいずれかの資料を一点、フォームからお送りいただけましたら、下図のような、診断クイックチェックをお返しさせていただきます。

トライアルご依頼フォーム

    ※PDF、PPT、Wordのいずれかのファイルを添付してください。最大ファイルサイズは3MBまでです。


    この記事の著者

    後藤洋平,ポートレート

    プロジェクト進行支援家
    後藤洋平

    1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。

    ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
    著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。

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