基本4類型別に解説!プロジェクトの攻略定跡

この記事について

着目する問題:
プロジェクトに「絶対」はないが、パターンはある

 「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」を書かせていただいて以来、えんえんと、長年、プロジェクトってなんだろう、なんなんだ!?と考えながら、生きています。

 これだけ長年考えて、答えが出ないということは、もしかしたら答えが存在しない、または問いの立て方を間違っているという可能性もありますが、いくら考えても際限がない問いというものは、人生に彩りを添えてくれるというか、実にこう、楽しい友達みたいなものでもあります。

 プロジェクトに「絶対」がないというその心は、以下の4点を意識してのことです。

 プロジェクトという活動を、もっとも単純化して考えると、それは「目標」「資源」「制約条件」の三要素で考えられます。このみっつの要素について、それぞれが十分に既知であり、状態として安定していれば、目標を達成するための踏破ルートは、実に簡単かつ合理的に考えられます。
 しかし、プロジェクトには「未知」というものがつきもので、また時間の経過とともに、思っても見ない変化を受けます。それが、プロジェクトを制御することが困難な理由です。

 ただまぁ、こうした捉え方は、極限まで抽象化した極論ではあります。実際問題として、ある程度安定した状況や環境で動かされるプロジェクトはよくありますし、無限の個性があるとはいっても、だいたいの性格が似通った仲間もいます。

 たとえば、以下の図は、ビジネスプロジェクトを「契約関係の明確さ」を基準にして類型化したものです。

第一類型 委託受託型

 あらゆるビジネスプロジェクトのなかで、最も基本的なのは、顧客と価値提供者の二者がいて、片方が希望する成果物をもう片方が作り上げ、引き渡し、対価と交換する、というものです。

 このコラムではおなじみ、アリスとボブのふたりでするプロジェクト、ですね。

受託制作プロジェクト

 委託受託型のプロジェクトは、作るものがなんであれ、ボブは、必ず何かしらの成果物を生み出します。それがアリスの希望に叶った場合に初めて対価が交換され、一件落着します。

 そんなプロジェクトの勝利条件とは、なにか。もちろん、人や状況によって異なります。
 一方で、長年、いろいろなプロジェクトに携わってきた経験則と実感から、一言でそれをあらわすと「最善のQCD(品質・コスト・納期)バランス」ということになるかな、と、思っています。

 その条件を満たすための中間目的と代表的な施策も含めて、以下、プ譜の形で書いてみました。

 このタイプのプロジェクトですと、施策群はいわゆる「ウォーターフォール型マネジメント」として語られるものと、ほぼほぼ近いものが並びます。

 最終的なゴール(標的)はアリスの納得であり、満足です。希望する予算やスケジュールはある程度明確になりますし、どんな仕様のものが必要であるかについても、対話する相手は明確です。ゆえに、ゴールを定め、そこから逆算し、確実に達成する、というアプローチを取ることができます。

 ただしポイントは、左側の廟算八要素に書き添えている「所与の条件や必達目標、想定リスク等をもとに施策の中身やレベル感、タイミングを調整する」の言葉です。
 現場の状況を無視して、教科書通り、型通りのウォーターフォールを押し付けると、たいていのプロジェクトは、破綻します。

 大事なのは、3つの中間目的と勝利条件を満たす、ということです。満たすために、様々な施策のタイミングや順番を工夫する。そこに、プロジェクトの妙味はあります。

第二類型 製品開発型

 製品開発型のプロジェクトとは、ある程度、製品を生み出すための組織基盤や法人同士の取引関係がすでに形成されていて、かつまた、生み出した製品を求める市場やセグメントが成立している場合を指します。

 わかりやすいところでいえば、自動車というマーケットが存在していて、自動車や部品を作るメーカー群がある。そのかたやに、自動車を買いたいと考える多くの顧客がいて、ある程度の投資をすることで、一定の売上や利益を見込める、そんな前提があって、そのなかで、新たなモデルの投入や、旧型モデルの刷新、マイナーチェンジを図っていく、というものです。

 製品開発を、ガチガチのウォーターフォールで回そうとすると、あんまりうまくいきません。

 なぜかというと、市場はすでに過去の製品を味わっていて、新鮮な喜びが欲しいからです。新鮮な喜びを生み出すには、ゴールを決めて逆算して、というアプローチは逆効果です。ゴールの見えた新製品なんて、むしろ興ざめです。

 もちろん、ビジネスとして収支を成立させるための、事前のリサーチや戦略、計算というものは、大前提として必要ですが、そのうえで、あっと驚くアイデアが生み出されるような場を作らなければなりません。そのために、あえてキツいゴールを示したり、解決困難な矛盾のなかで試行錯誤する、ということが、欠かせません。

第三類型 事業開発型

 事業開発型のプロジェクトとは、未来の顧客をそもそも探すところから始まるプロジェクトです。

 第一類型には、目の前に顧客がいました。第二類型は、特定の個人ではなくとも、一定の「層」としてのマーケットが見えていました。
 事業開発は、一体今後、どんな人が顧客になってくれるのかもわからないという、不確実性の度合いが一層強まったプロジェクトです。

 事業開発で問われるのは「創造性」です。現代流にいえば、イノベーション、ということです。これまでに、想像もつかなかった発想で、新たな価値が世の中に生まれる、それが世間を席巻し、人口に膾炙していく。
 プ譜で書くと、下図のようなアプローチが、定跡となっています。

 施策としては、いわゆる「アジャイル」的な用語が並びます。創造性は、計画では宿りません。いわゆる啐啄同時、問いと答えが同時に飛び出す、という形でしか、イノベーションは、生まれません。
 アジャイルの本質とはなにか。IT/デジタルの世界で、意図的に啐啄同時をするために編み出されたプロセスの型である、ということです。

 ただし、やたらめったらアジャイルをなぞればいいというわけではなく、社会や技術への洞察を深めることであったり、最後は大きく市場や世間に問うていくための経済的パワープレイのようなものも、求められます。

第四類型 変革型

 最後の類型が、変革型です。ビジネスプロジェクトにおける代表的なものは、会社のあり方を刷新して、あらたな文化や風土を根付かせたい、といったものです。

 変革には、契約関係は一切ありません。

 経営陣と社員が契約書を交わして「明日から、あらゆる業務を自分ごととして捉えて、積極的に、率先して成果を生み出してくださいね」と約束するなんて、変ですよね。

 委託・受託型のプロジェクトマネジメントとは、ある意味では契約マネジメントをとことんまで突き詰めることで、成就しますが、変革プロジェクトは、その対極の世界です。

 「変革」に、合意形成や根回し、という言葉は、似合いません。「啓蒙」も、ちょっと違うかなと思います。

 あるべきなのは「関心」「協力」「行動」「理想」「連帯」ということではないかな、と、思います。

まとめ

 さて、簡単ではありますが、タイプ別のプロジェクト攻略法をご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?

 もちろん、これが絶対ではありませんが、筆者の経験則や長年の探求の結果として、それなりに参考にしていただけるものにはなっているかなと、思っています。

 「このプロジェクト、どうやって進めよう」と悩んだときは、ぜひ一度、自身の取り組みが、どの類型に近いのかを考えてみてください。そして、満たすべき条件に見落としがないか、実行すべき施策が漏れていないかということを、振り返ってみていただけると幸いです。


この記事の著者

後藤洋平,ポートレート

プロジェクト進行支援家
後藤洋平

1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。

ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。

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