
この記事について
あらゆるプロジェクトには個性があり、絶対にこうすればうまくいく、というものは、ありません。一方で、プロジェクトにはある程度の類型化や経験則、パターンがあるのも事実です。この記事では、委託・受託型プロジェクトは、なにを、どこからどう始めるとよいのか、なにがどうなれば一件落着にするのかを、筆者自身のものづくり業、IT業、研修業での実体験や「思い出の一言」から、解説します。
もくじ
1 着目する問題:委託・受託型プロジェクトはどうすれば落着するか
2 ものづくりの世界における教訓
3 ITプロジェクトでの教訓
4 組織・人材開発の世界ではどうか
5 まとめ:委託・受託型プロジェクトの真髄を、プ譜で表現する
着目する問題:
委託・受託型プロジェクトはどうすれば落着するか
世の中には、制作業というビジネスモデルがあります。目の前のお客さんのために、目の前のお客さんが欲するものを、ゼロから作り上げ、引き渡す、というものです。
ジャンルは非常に多岐にわたります。家を建てる、とか、業務システム、とか、一本のキャッチコピーを書く、とか、マーケティングリサーチの報告書を書く、とか、実に様々なものがあります。
制作業の面白いところは、お客さんの要望や好みが千差万別だ、ということです。ものすごくこだわりが強いお客さんもいれば、ものすごくこだわりが薄いお客さんもいます。
プロセスが大事だ、というお客さんもいれば、結果が大事だ、というお客さんもいます。予算がたっぷりのお客さんもいれば、吝嗇なお客さんもいます。成果物の目利きができるお客さんもいれば、そうでないお客さんもいます。
どんなお客さんにも共通することもあります。
それは、実際に、仕事を一緒にしてみる前には、どんなお客さんなのか、わからない、ということです。
そして、一件落着してしまえば、また別の、新しいお客さんに出会っていく、ということです。
制作業においては、新しいお客さんと出会い、新しいプロジェクトを始めるときには、それまでの経験はゼロリセットされてしまいます。それこそが、制作業の難しいところでもあり、面白いところでもあります。
制作プロジェクトの世界は、山あり谷あり、酸いと甘いの両方があり、実に豊かです。
今回のテーマは、委託・受託型プロジェクトの進め方です。
ものづくりの世界における教訓
筆者が、社会に出てから最初に従事したのは、ものづくりの世界でした。ものづくりのなかでも少々特殊な「試作」の仕事でした。自動車メーカーや家電メーカーが設計した部品データを受け取り、試作品を作って納める、という仕事でした。
その会社では、当時、世の中に登場したばかりの光造形・粉体造形技術というものを使っていました。いまでいう「3Dプリンタ」というやつです。
従来は、試作品を作ろうとすると、金型作りに数ヶ月かけるようなことが当たり前でしたが、これを活用すると、3Dデータさえあれば、ものの数日でモノを作って渡すことができ、とんでもない時間短縮になると、一世風靡していました。
就職する前は、とんでもない夢の技術で、これを使えば世界が変わるんじゃないかと衝撃を受け、喜び勇んで就職したのでした。しかし、いざ入社してみると、大変に困難な毎日が待っていたのでした。
確かに、あっという間にモノはできあがる。しかし、結構な頻度で、不具合が生じる。曲がったり、ねじれたり。寸法が出なかったり。変色したり、割れてしまったり・・・
ものがうまくできないだけではありません。当時、その技術は非常に高い人気を誇っていました。ゆえに、多くの顧客から、注文が殺到していました。そこで起きのが「順番待ち」でした。機械にかけてしまえば、たった数時間で、モノができる。しかし、その機械にかかるまでの順番待ちに、最低3日も4日も待たされる・・・なんてことも、よくありました。
高速試作サービスと銘打って、スピードを売りにしているのに、機械の順番待ちで、そのスピードが殺されてしまう。なんとも皮肉な状況が、そこにはありました。
また、これも入社してみて意外に思いつつ、確かになるほどと納得したのが、「サービスが、自社では完結しないことも多い」ということでした。
造形品を作って終わり、ではなく、そこに塗装をしたり、あるいは仕上げのための治具(組付け台のようなものです)を作ったり。そうすると、そこでまた当然のように、時間もコストもかかります。それだけでなく、その案件の元請けとして、外注に出す分の責任も、自分が引き受けなければならない。
当時、まだ若かった自分は、外注先のミスや納期遅れは、外注先の責任であり、自分が被る必要はないはずだと思っていたのでした。そんなわけで、案件を失敗してしまい、先輩に呆れられたり怒られたりしたものでした。
「夢のようだと思った技術」が、あっという間に「困難な現実」にすり替わっていったのを、いまでも懐かしく覚えています。
当時、担当顧客から、仕事の真髄を教わった言葉に、こんなものがあります。
「それは、御社のご都合でしょう」
そのお客さんは、納期もスケジュールも、予算にも非常に厳しいお客さんでした。夏休み前にデータを渡されて、夏休み明けたら早々にモノが欲しい、なんてザラのお客さんでした。
製造メンバーにも嫌がられるし、対応してくれる外注先も、簡単には、見つからない。新人営業としては、いかに営業成績になろうとも、仕事が来てほしくないお客さんナンバーワン。
しかし、発注の量が多い。ゆえに、会社としては、無下にはできない。担当営業には、とにかくキツい。
ある休前日に、流石にもうこれ以上は対応できない理由を述べた私に、一言、「御社の都合でしょう」と、それはそれは冷たく突き放す一言が放たれたのでした。
ガーンと衝撃をくらいながら、なにも言い返せず、泣きそうになりながら手配に奔走していました。
しかし不思議なもので、ある程度の期間を経たら、やるべき工夫さえしてしまえば、別にそんなに手配が難しくはないぞ、ということにも、気付いたのでした。工夫とは例えば、納期が厳しい分、仕上げのレベルを落とさせてもらえるところを見つけて、納期短縮を図れば、お客さんも仕上げの現場も喜ぶ、といったことです。
あるいは、休み中の仕事に、外注先から嫌な顔をされるのは、忙しくて混んでいるからで、仕方ない。だったら、売上が恋しい外注先を探せばいい。
そういうふうに、発想を切り替えることができたのは、ある先輩のひとことがあります。
「客、おれら、外注。みんなが嬉しい案件が、いい案件なんだ。誰かひとりだけ得をする座組は、うまくいかないもんだ。」
試作営業は、明らかに、かなりハードルの高いプロジェクトマネジメントが求められる世界です。お客さんから、納期もお金もたっぷりで、品質チェックも楽々、外注先だって大喜びで付き合ってくれる、なんてことは、まず、ない。
どこかで必ず、結構な無理を求められる。そのときに、受注の窓口に立った自分が、あぐらをかいていてはだめで、どうにかこうにか、いろんな条件を調整し、みんなが納得できる形を探っていく。一見、あちらを立てればこちらが立たずでも、どこかで誰かが妥協できる余地がある。それを見つければいい。それこそが、PMの極意なのだと、悟ったのでした。
ただし、どんなに手配を完璧にしたって、ものをつくるという過程で、避けられないのが不具合です。こればかりは、確率的に、絶対に、ゼロにはならない。どうしようもない。
不具合問題に対して目を開かせてくれた先輩の一言も、あります。
「必ず、不具合は、起きるもんだ。大事なのは、問題が起きたときに、交渉できる土俵を作っておくことだ」
不具合が起きたときに、100%こちらの責任であった場合、基本的には、損害は、こちらがかぶらなければなりません。しかし、制作を進める過程で、「ここにはこういうリスクがありますよ」とか「本当にこれで進めていいですね?」といった、承認のゲートを作っておく。
そうすることで、コントロールできないリスク要因であっても、ある程度はリスクヘッジが可能になる、ということを教わったのも、ものづくりの現場でした。
かたやで、その対極にある言葉に、こんなものもあります。
「どうやって納品するかって?そんなものは、受注してから考えるんだよ!」
これは、過去にないほどの巨大な制作案件でした。考えてみるまでもなく、強度が出るとは思えないし、作れるというイメージが、まったくわかない。そんな案件の引き合いがあり、当時の部長に営業同行してもらった帰りの車の一言です。
どうやったら作れるのか、皆目見当もつかないなか、部長はお客さんとの打ち合わせをスラスラと進めていきます。その打ち合わせで伝えたメッセージは、ふたつ。「できる」と「任せてくれ」というシンプルなものでした。
さすが部長、どうやったら作れるかを、すでに考えてくれていたんですね、地獄に仏です・・・と帰りの車の中で感謝したら、答えは「そんなもん、わからん」とのこと。
極めつけに、「お前が考えるんだよ!」と突き放されてしまいました。
その2ヶ月後には、すったもんだの挙げ句、どうにかこうにか、形を作ることに成功しました。
「どうすればできるか」に一点集中して考えることも、大事だという、教訓を与えてくれた一件でした。
ITプロジェクトでの教訓
その後の別の会社の仕事で、ITプロジェクトにも携わる機会がありました。
いわゆるノーコード、ローコードツールの先駆け的な製品で、これさえあれば夢のように自由自在に業務マネジメントができる・・という謳い文句の製品でした。
喜び勇んで入社してみて、蓋を開けてみたら「お客さんは、ITが好きではない」という現実にぶち当たったのでした。そして「わけのわからないカスタマイズを繰り返して、カオスになった業務画面」と向き合う日々が始まりました。
しかし、不思議なもので、ITの世界でも、ものづくりの世界で学んだ基礎哲学をそのまま適用すれば、楽々と納品が捗ったものでした。
ただし大変だったのが、大規模プロジェクトでした。こればかりは、小手先のPMテクニックでは、管理しきれない。そこでとうとう、PMBOK式のマネジメント術を習得しながら、仕事を進めることになったのでした。
いわゆる、WBSを厳密にする、課題管理をちゃんとやる、定例会議のハンドリング、テスト計画と実施、といったものです。
特に重要だったのが、仕様や要件をしっかりと詰め、文書にして残しておくことでした。
組織・人材開発の世界ではどうか
独立後は、いわゆる組織・人材開発の世界のプロジェクトに携わることになりました。コンパクトなものだと、研修の依頼をいただいて、プログラムを工夫し、実演する、というようなものです。
すこし大掛かりなものですと、組織風土を変えていこう、とか、業務プロセスを刷新していこう、といったテーマのなかで、コンサルティングや伴走もしながら、長期間関わっていく、というものです。
ここで、ものづくりの世界と真逆だったのは、品質基準がよくわからない、ということでした。特に、研修のようなサービスの場合、発注者が現場のことをよく知らない、ということがしばしばあります。どんな研修をしたら喜ばれるのか、なにがどうなったら合格なのか、よくわからないなかで、とにかくやる、みたいなことが、結構よくあります。
担当者とのコミュニケーションで、仕様や要件を詰められないということで、かなりここは苦労をしました。最終的には、事前にアセスメントサービスを入れさせてもらう、ということで、決着しました。
まとめ:委託・受託型プロジェクトの真髄を、プ譜で表現する
ものづくり、IT、組織・人材開発と、いろんな業界で経験してきたプロジェクトマネジメントですが、抽象化していくと、そこにはいつも共通する「原理」が流れていたように思います。
それを図示したのが、こちらです。

この記事の著者

プロジェクト進行支援家
後藤洋平
1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。
ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。
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